大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所秋田支部 昭和30年(ナ)2号 判決

原告 石山権作

補助参加人 小幡谷政吉

被告 秋田県選挙管理委員会

補助参加人 加賀谷保吉 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用中原告補助参加人の参加によつて生じたものは同参加人の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

(事実関係)

原告訴訟代理人は本訴請求の趣旨として「被告が昭和三十年六月二十六日なした同年四月二十三日執行の秋田県議会議員一般選挙の秋田市選挙区における小幡谷政吉の当選を無効とする旨の決定は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として第一、原告は昭和三十年四月二十三日執行の秋田県議会議員一般選挙の秋田市選挙区の選挙人である。第二、右選挙につき秋田市選挙区においては定員五名に対し小幡谷政吉外十名の立候補届出者があつた。第三、開票の結果、

川口大助  九、四八七票

荻原麟次郎 八、八一三票

金子恭三  七、九〇五票

鈴木寿   七、三八六票

小幡谷政吉 六、八四九票

加賀谷保吉 六、八一八票

小泉四郎  五、八七〇票

続資一   三、〇七六票

山信田嘉平 二、九三一票

仙葉善之助 二、三一八票

堀井逸郎  一、一二六票

となり最下位当選者小幡谷政吉よりも三一票の差をもつて加賀谷保吉は次点と決定し、昭和三十年四月二十六日当選人の告示がなされた。第四、しかるに同選挙区の選挙人豊間サダ子、同渡部典児はいづれも昭和三十年五月二日被告に対し右選挙の同選挙区における当選人小幡谷政吉の当選を無効なりと主張し異議申立をなした。第五、被告は同選挙区の有効無効投票全部を審査した結果、昭和三十年六月二十六日小幡谷政吉の得票は六、七七九票、加賀谷保吉の得票は六、八二一票となし、加賀谷保吉の得票が小幡谷政吉のそれよりも四十二票多いため、小幡谷政吉の当選を無効とする旨の決定をなし、同日その決定書を前記異議申立人に交付した。そこで原告は右決定の取消を求むるため同年七月二十三日本訴を提起したものである。第六、被告のなした右決定の要旨は、(一)本件の県議会議員選挙は前記昭和三十年四月二十三日執行されたものであるが、同日秋田県知事の選挙も行われ知事選挙の候補者として小畑勇二郎が立候補しており、当日の秋田県一般の選挙状況からみるに、県議会議員に対する投票と知事に対する投票とが混同されている傾向があり、県議会議員の投票中「オバタ」「ヲバタ」「おばた」と記載したものは、知事候補者小畑勇二郎に対し投票したものと判断されるので、これを小幡谷政吉の得票とするのは失当であり、右投票六五票は無効となすべきである。(二)また小幡谷政吉の得票中に明らかに他の候補者又は知事候補者に対する投票と認められるものが七票あり、なお他事記入(○または◎を付したもの)のため無効となすべき投票が二票ある。(三)小幡谷政吉の得票中に「小畑」と記載した投票七票あることを発見したが、これは知事候補者小畑勇二郎に対する投票であり、公職選挙法第六十八条第二号により「候補者でない者の氏名を記載したもの」として無効である。(四)加賀谷保吉の得票中に他の候補者(小幡谷政吉のもの二票、仙葉善之助、金子恭三のもの各一票)に対する投票四票あり、うち二票は小幡谷政吉の得票に算入すべく、その他はそれぞれの候補者の得票に算入するを相当とし、また「加賀谷保吉・推す」と記載した投票は無効である。(五)以上を通算するに、選挙会において認めた小幡谷政吉の得票六、八四九票のうちから無効となすべき合計八三票を差引き、他方選挙会が無効となした投票のうち有効と認むべき一三票を加算すると、小幡谷政吉の得票は六、七七九票となり、また選挙会が認めた加賀谷保吉の得票六、八一八票から無効投票及び他の候補者に算入すべき五票を差引き、新に有効投票八票(選挙会が無効としたもののうち六票の有効投票、他の候補者の投票に混入された有効投票二票)を加算すると加賀谷保吉の得票は六、八二一票となるので、加賀谷保吉の得票が小幡谷政吉のそれよりも四十二票多数となり、加賀谷保吉を第五位の当選者、小幡谷政吉を次点者となすべきであるというにある。第七、しかしながら(一)被告が無効投票と決定した「おばた」「オバタ」「ヲバタ」などと記載した前記六五票は勿論「小畑」と記載した投票七票も小幡谷政吉に対する有効投票となすべきであり、(二)開票区によつては右の「おばた」「オバタ」「ヲバタ」などと記載した投票を無効となしたものが四〇票以上あるところ、これも前同様小幡谷政吉に対する有効投票となすべきである。第八、「おばた」「オバタ」「ヲバタ」などと記載された投票を小幡谷政吉の有効投票となす理由は次のようである。

(イ)  旧秋田市(十三箇町村合併以前)の投票所においては、知事選挙の投票函と県議会議員選挙のそれとを区別し、係員は選挙人に投票用紙を交付するに当り口頭をもつて注意を与えたので投票の混同は生ぜず選挙人も選挙の混同をなしたことはないものと認められるので県議会議員選挙の投票函に投入された「おばた」「オバタ」「ヲバタ」などと記載された投票は小幡谷政吉に投票する意思をもつて投票されたものであるとみるべく従つて被告が無効と決定した六五票及び同選挙区の開票区によつて無効と認めて処理した四〇票以上合計少くとも一〇五票は小幡谷政吉に対する有効投票となすべきである。

(ロ)  「おばた」「オバタ」「ヲバタ」などと記載された投票は選挙人が「おばたや」「オバタヤ」「ヲバタヤ」などと記載せんとして「や」「ヤ」を遺脱したものであり、この種投票で県議会議員選挙の投票函に投入されたものは小幡谷政吉に対する有効投票となすべきであり、決して知事候補者小畑勇二郎に対する混同投票となすべきではない。而して斯のように脱字をなす理由は多岐にわたるが(A)小幡谷なる姓は秋田市役所土崎支所管内に三戸あるのみで、小幡谷政吉の先代は小幡であつたので現在でも単に「おばた」と呼称する者がある。菩提寺に存する墓碑並びに文書には「小幡」と記載されたものが多い。(B)小幡谷政吉方では約十年前まで菓子製造業を営んでいた関係で小幡谷の「谷」を屋号の「屋」と誤解し、小幡谷政吉の姓は単に「おばた」と呼ぶものと信じている者あり、これは同人の知人にも存する。(C)小幡谷政吉に宛てた文書例えば封書、はがき等でも宛名に「谷」をつけず単に「小畑」、「小幡」となすものが多い。これは同人が県議会議員当選四回、土崎工機部労働組合出身の有名人であるため同人に配達されている。

以上のとおりであるから「おばた」「オバタ」「ヲバタ」「小畑」「小幡」その他これに類する記載のある投票はすべて小幡谷候補の有効投票となすべきである。第九、本件選挙における各投票の有効無効の主張については、原告補助参加人の昭和三十一年二月十六日付準備書面の記載を援用する。但し同準備書面第二を除き、同第三の二「他の候補者の氏名を記載してあるもの」の項に存する候補者加賀谷保吉の有効得票中「小幡谷政吉」と記載した投票数「五」は誤記であり、その投票数は「八」と訂正する。その内訳は第七開票区三票、第八開票区一票、第九開票区四票である。右合計八票は加賀谷候補の有効得票から控除し小幡谷候補の有効得票に算入すべきである。なお第二開票区における候補者加賀谷保吉の有効得票中点字投票一票(検53号)は鑑定の結果「コイズミシロウ」と記載されていることが明らかになつたので、他の候補者の氏名を記載した投票として加賀谷保吉の得票から控除すべきである。第十、以上のとおりであるから、選挙会で認めた小幡谷政吉の有効投票六、八四九票に前記七の(二)にあげた同人の有効投票四〇票を加算し同人の有効投票は合計六、八八九票となるので、すでにこれだけでも、選挙会で認めた加賀谷保吉の有効投票六、八一八票より七一票多いこととなるので原決定は当然取消さるべきである。第十一、選挙会で決定した加賀谷、小幡谷両候補の得票数には誤算があるので投票検証の結果に基き計算することには異議ないと述べ、なお被告の主張に対し、本件の県議会議員選挙における「おばた」「オバタ」「ヲバタ」「小畑」「小幡」などと記載した投票は原告補助参加人小幡谷政吉に対する有効投票であるか、または同時に行われた知事選挙の候補者小畑勇二郎に対する投票と混同した無効投票であるかは抽象的に決定すべきではなく、具体的に各角度から観察して結論を得なければならない。例えば(1)一般の智識程度(2)投票所の模様(3)投票区域内の有権者の候補者に対する認識程度(4)候補者氏名の書き方の難易(5)投票管理者の選挙人に対する指示などを参酌すべきであつて、被告の主張するように現在一般選挙人の智識の程度においては同時選挙の場合、両選挙を混同し甲選挙の投票用紙に乙選挙の候補者の氏、名又は氏名を明確に記載した投票があるときは、たとい甲選挙の候補者中にこれと類似の氏、名、又は氏名の者があつてもその者に対する有効投票と認めることはできない旨の原則を設けこれを一般的に適用すべきではない。公職選挙法の趣旨はできる限り選挙人の意思を尊重し投票の記載が法に違反しない限りその投票の記載によつて特定の候補者に投票したものと推定し得る場合はその候補者の有効投票と認むべしというにある。その他被告及び被告補助参加人両名の主張で原告の主張に反する点は争うと答えた。

原告補助参加人小幡谷政吉の代理人の陳述は次のとおりである。

第一、候補者小幡谷政吉の有効得票中、被告、同補助参加人等の無効を主張するものについて、(以下票数につき被告等と多少の相違があるが、検証調書に基き算出した)

1、「小畑」と記載した投票 六票

右は、小幡谷候補の氏を記載するに当り、「小幡谷」の「幡」を「畑」と書誤り、且「谷」を誤脱したもので同候補に対する有効投票と解すべきである。

2、「ヲバタ」「ヲバダ」「オバタ」と記載した投票(検3号を含む) 四三票

3、「おばた」と記載した投票 一八票

4、「おバタ」と記載した投票 一票

右2乃至4の各票は何れも平仮名又は片仮名を以て「おばたや」若くは「オバタヤ」と書くべきところ、「や」又は「ヤ」を誤脱し、又、或は「ヲバタ」と訛つたものであつて小幡谷候補に対する有効投票と解すべきである。

5、「オバ」と記載した投票(検2号) 一票

(4)と同じく「オバタヤ」の「ヤ」を誤脱し、且「タ」を「田」の同音漢字に書誤つたものである。

6、「ホバタ」と記載した投票 一票

(2)と同じく「オバタ」と書くべきところ、「ホバタ」と訛つたものである。

7、「はた」と記載した投票(検12号) 一票

(3)と同じく「おばた」と書くべきところ、「お」の点及び「ば」の濁点を誤脱したもの、「」のみでは字体をなさないし、且、「お」に作る他ないことからしても「おばた」と解すべきである。

8、「オバタ小」と記載した投票(検29号) 一票

「」は「田」扁に「火」であつて、「火」扁に「田」の「畑」字を書誤つたもの、「オバタ」とわざわざ振仮名してあることよりしても「小畑」と解すべきで、前記(1)と同様である。

9、「ナバ」と記載した投票(検27号) 一票

「ナ」は「オ」を書誤つたもので「ダ」字も不明確ながら判読可能であり、結局「オバダ」という意で前記(2)に準じ小幡谷候補に対する有効投票と解すべきである。

10、「小幡田」と記載した投票(検25号) 一票

「小幡田」とは「オバタ」の意で「幡」字の読誤りから前記(5)の如く「田」字を添付したもの、特に「幡」字を用いている点よりしても後記(12)と相俟ち小幡谷候補に対する投票と解すべきである。

11、「おた」と記載した投票(検31号) 一票

「」とは「ば」の左棒を誤脱したもので濁点のあることからして「ば」以外に作られず、結局「おばた」と書く意思であつたことが窺われ、前記(3)に準じ有効とすべきである。

12、「小幡」と記載した投票(検4、5号を含む) 一六票

「小幡谷」の「谷」を誤脱したもので、「幡」字を書いていることからしても、県知事選挙に於ける小畑候補でなく、本件選挙に於ける小幡谷候補えの投票であることは明白である。

(尚、(1)乃至(12)に亘る各投票が小幡谷候補に対する有効投票であるとの主張は後に詳述する)

以上小計 九一票

13、「オバタヤ勇」と記載した投票(検30号) 一票

「オバタヤ」という明かな小幡谷候補の氏が記載されて居り、「勇」字は一見、小畑勇二郎県知事選挙候補の名の頭字の如くであるが、一般に吾人の経験に徴しても人の氏は覚え易いが、名は仲々覚え難いものであるし、偶々「オバタヤ」の氏のみ書いて名を書く時に小畑勇二郎という類似の呼称に惑わされて「勇」と書いたに過ぎず、全書体よりして氏の明白な小幡谷候補に対する有効投票と解すべきである。

14、「小畑ゆーじ郎」と記載した投票 一票

15、「加賀谷保吉」と記載した投票 二票

16、「鈴木寿」と記載した投票 一票

17、「山信田嘉平」と記載した投票 一票

18、「おぎはら」と記載した投票 一票

19、「おぎわら」と記載した投票 一票

右七票は無効投票であることを認める。

20、「小幡谷保吉」と記載した投票 四票

右は小幡谷候補の氏名中「政吉」を「保吉」と書誤つたもの、なるほど加賀谷候補の名は「保吉」であるけれども之を以て右投票は氏が小幡谷候補、名を加賀谷候補のものと速断することはできない。むしろ右投票者は小幡谷候補の氏名中「政吉」を語呂の似通つた名で単に一字のみの相違である加賀谷候補の「保吉」に混同したに過ぎず、明かにその氏を記載してある点より見ても小幡谷候補に対する有効投票と目すべきである。

21、「おばたややしきつ」と記載した投票(検21号) 一票

右も前記(20)に準ずべく、唯「やすきち」を「やしきつ」と訛つたものである。

22、「おばたやすきち」と記載した投票 一票

小幡谷候補の氏中「や」を誤脱することあるは前記(1)乃至(12)によつても明かで、且前記(20)(21)に示した理由により「まさきち」を「やすきち」に書誤つたに過ぎず、小幡谷候補の有効投票であることは間違いない。

23、「オバタマサジロウ」と記載した投票 一票

右は無効投票であることを認める。

24、「小バタマサロ~」と記載した投票(検32号) 一票

25、「オバタマサキ」と記載した投票(検69号) 一票

右二票は何れも小幡谷候補の氏中、「ヤ」を誤脱したもの、名の中、「マサキチ」の「キチ」を忘れて「ロ~」とし、或は「キ」迄書いて「チ」字を書き得なかつたに過ぎず、同候補に対する有効投票と目すべきである。尚、「オバタマサキチ」という記載の投票は被告も之を認めていること、後述のとおりである。

26、「畑」と記載した投票(検18号) 一票

27、「」と記載した投票(検19号) 一票

右二票は何れも「畑」字の書誤りであつて、小幡谷候補の氏を記載するに当り、最も印象の強い「幡」を「畑」で当てたものである。本件選挙立候補者中他に「畑」を称する者はなく、右記載は小幡谷候補の氏に最も類似していることよりして同候補者に対する投票の意思であつたものと認められる。

28、「小」と記載した投票(検20号) 一票

「」字はいさゝか明瞭を欠くが結局「田」に「火」を配した「」と判読できるから前記(1)及び(8)と同理由により有効である。

29、「オバクカ」と記載した投票(検24号) 一票

「オバタヤ」と判読可能である。「ク」は「タ」に作るつもりで書いたもの、末字の「カ」は「ヤ」と字劃が類似しているため混同して書誤つたものと認められる。

30、「小バタや○」と記載した投票(検1号) 一票

31、「◎小幡谷政吉」と記載した投票(検23号) 一票

「○」「▲」「□」等文字以外の通常、物の形状をあらわす記号として用いられるものを投票用紙に記載して、候補者を表示しても必ずしもその投票を無効と解すべきでないことは既に最高裁判所の判例としているところである。(昭和二九年一二月二三日言渡同二八年(オ)第一一〇五号事件第一小法廷判決、昭和三〇年三月一一日言渡同二九年(オ)第六六八号事件第二小法廷判決最高裁判例集第九巻第三号二八〇頁参照)従つて右「○」「◎」等の記載も他事記載とならない。

32、「政吉さんへ」と記載した投票(検22号) 一票

「政吉」は小幡谷候補の名であるが、「さんへ」の「さん」は通常使用される敬語、「へ」は同候補に特に投票する意味で附加したもので、「さんへ」と一括して公職選挙法第六八条第一項第五号に所謂敬称の類に属するものである。

第二、候補者加賀谷保吉の有効得票中、原告補助参加人として無効を主張するもの、

一、何人を記載したか確認し難きもの、

1、「加賀」と記載した投票(検42、95、96号を含む) 五票

2、「かかヤシ」と記載した投票(検43号) 一票

3、「カヤ」と記載した投票(検44、73号) 二票

4、「賀谷保吉」と記載した投票(検45号) 一票

5、「かや」 と記載した投票(検54号) 一票

6、「かかヤしかしき」と記載した投票(検55号) 一票

7、「かがヤヤち」と記載した投票(検56号) 一票

8、「カノヤ」と記載した投票(検58号) 一票

9、「カガマ」と記載した投票(検59号) 一票

10、「ヤ」と記載した投票(検60号) 一票

11、「加賀谷政吉」と記載した投票 一票

12、「かがす」と記載した投票(検71号) 一票

13、「かかヤ」と記載した投票(検72号) 一票

14、「カヤツ」と記載した投票(検74号) 一票

15、「カガス」と記載した投票(検75号) 一票

16、「カガヤホリキ ツ」と記載した投票(検76号) 一票

17、「カガヤキスキチ」と記載した投票(検77号) 一票

18、「カガヤスギ」と記載した投票(検80号) 一票

19、「加賀久保吉」と記載した投票(検83号) 一票

20、「カガハヤシキリ」と記載した投票(検84号) 一票

21、「ガガ」と記載した投票(検85号) 一票

22、「かヤア」と記載した投票(検87号) 一票

23、「ガガ」と記載した投票(検88号) 一票

24、「賀谷佶(ヤ)吉」と記載した投票(検89号) 一票

25、「かがヤマスキケ」と記載した投票(検90号) 一票

26、「かヤス」と記載した投票(検91号) 一票

27、「カガス」と記載した投票(検92号) 一票

28、「加賀」と記載した投票(検93号) 一票

29、「カ」と記載した投票(検94号) 一票

小計  三四票

二、他の候補者の氏名を記載してあるもの、

1、「仙葉善之助」と記載した投票 一票

2、「おばたやまさきち」と記載した投票 二票

3、「小幡谷政吉」と記載した投票 八票

4、「かねこきよぞう」と記載した投票 一票

5、「コイズミシロウ」と記載した投票(検53号) 一票

小計  一三票

三、立候補者以外の氏名を記載してあるもの、

1、「加賀谷吉」と記載した投票 一票

2、「加賀谷保次郎」と記載した投票 一票

3、「加賀谷末吉」と記載した投票(検65号) 一票

小計  三票

四、候補者の氏名のほか他事を記載したもの、

1、「加賀谷保吉」と記載した投票(検46号) 一票

2、「」と記載した投票(検47号) 一票

3、「賀(かがヤ)保吉」と記載した投票(検48号) 一票

4、「」と記載した投票(検49号) 一票

5、「」と記載した投票(検50号) 一票

6、「加賀谷」と記載した投票(検66号) 一票

7、「加賀谷保吉・推す」と記載した投票 一票

「推す」は有意の他事記載である。

8、「」と記載した投票(検67号) 一票

9、「」と記載した投票(検79号) 一票

「アンコ」はむしろ蔑称であつて公職選挙法第六十八条第一項第五号に所謂敬称の類に該らない他事記載である。

小計  九票

五、他事記載若くは何人を記載したか確認し難いもの、

1、「か賀ヤゆうきちめ」と記載した投票(検70号) 一票

2、「」と記載した投票(検78号) 一票

3、「」と記載した投票(検81号) 一票

小計  三票

第三、無効投票中、被告等の候補者加賀谷保吉に対する有効投票と主張するものについて、

1、「」と記載した投票(検10号) 一票

2、「カガ」と記載した投票(検11号) 一票

3、「カカマ」と記載した投票(検14号) 一票

4、「カヤ」と記載した投票(検15号) 一票

5、「カガヤキ」と記載した投票(検38号) 一票

6、「加賀(かかヤ)シ」と記載した投票(検39号) 一票

7、「」と記載した投票(検40号) 一票

右七票は何れも何人の氏名を記載したか全く不明であり、加賀谷候補に対する有効投票とは認め難い。

8、「加賀谷直治」と記載した投票 一票

加賀谷直治とは、被告補助参加人等も認めているように嘗て県会議員、県会副議長として在職し、昭和二十八年三月二十三日死亡した実在人であつた。従つて全く実在しない人の氏名なら兎も角、右のように嘗て実在し、然も相当著名であつた人の氏名を間違える虞もない筈であるから右一票は加賀谷候補に対する投票と目すべきではなく、加賀谷直治その人に対するものとして無効と言うべきである。

第四、無効投票中、小幡谷政吉候補に対する有効投票と認むべきものについて、

1、「小幡谷保吉」と記載した投票 一票

前記第一(20)の理由と同じ。

2、「大畑谷政吉」と記載した投票(検97号) 一票

「小幡谷」と「大畑谷」とは語呂全く相似て居り、然も「小畑谷政吉」の記載は被告等も之を小幡谷候補に対する有効投票と認め、又、名の記載は「政吉」と明記してあることからしても小幡谷候補に対する有効投票と見るべきである。

3、「おばたやしろ」と記載した投票 一票

小幡谷候補の氏である「おばたや」の記載明白であり、「しろ」とは一見何を意味するか不明であるが被告主張の如く、候補者小泉四郎の名と混記したものとは認め難く、有効とすべきである。

4、「小幡」と記載した投票 七票

5、「小畑」と記載した投票 二一票

6、「オバタ」「ヲバタ」と記載した投票 四五票

7、「おばた」と記載した投票 三二票

8、「オばた」「小ばた」と記載した投票 二票

9、「OBata」と記載した投票 一票

右(4)乃至(9)に亘る分については後述する。

10、「大バダ」と記載した投票 一票

「オバタヤ」の氏の内、「ヤ」を誤脱し、且「オヽバダ」と訛り、「大バダ」と記載したもので小幡谷候補に対する投票と目すべきである。

11、「オバヤ」と記載した投票 一票

「」はいさゝか明瞭を欠くが「タ」と書いたものを抹消しかけて更に書直したものかの如く、小幡谷候補の氏を記載したものであることは間違いないから有効投票とすべきである。

12、「おバヤ」「小バヤ」「小ばヤ」と記載した投票(検61、62、63号) 三票

何れも小幡谷候補の氏を記載するに際し、「タ」若くは「た」を誤脱したもので、「ヤ」をわざわざ附していることからしても県知事選挙の小畑勇二郎候補の氏と混記したものとも思われないから、何れよりするも小幡谷候補に対する有効投票と認むべきである。

13、「オタヤ」と記載した投票 一票

小幡谷候補の氏の内、「バ」を誤脱したもので、他に之に類する氏を有する候補者もいないので当然小幡谷候補に対する投票と認むべきである。

第五、前記第一(1)乃至(12)九一票(小畑、ヲバタ、ヲババダ、オバタ、おばた、おバタ、オバ田、ホバダ、はた、小、ナバダ、小幡田、おた、小幡)第四(4)乃至(9)一〇八票(小幡、小畑、オバタ、ヲバタ、おばた、オバた、小ばた、OBata)各票(以下「オバタ」各票と略称する)が小幡谷政吉候補に対する有効投票であると主張する理由、

一、元来、小幡谷候補の氏は加賀谷候補の氏と比較する時、発音も字余りとなり呼称も困難で、平常その氏に接する人になら兎も角、今回の選挙の際等に偶々その氏を聞くような人々にとつては覚えられ難いし、記載し難いというハンデキヤツプがあることは充分考えられるところであつて、加賀谷候補に対する投票の記載の誤記が比較的少いのに反し、右「オバタ」各票記載の如く「小幡」「小幡屋」「小畑」「小畑屋」「小畑や」「オバタ」「オバヤ」「オタヤ」「小バ谷」等々、その記載は実に多種多様に、その数、多きに上つているのも右の理由に基く次第である。

今、本件選挙に於ける秋田市の各開票区の小幡谷候補に対する有効投票(被告等の争はないもの)中、第二乃至第九開票所に於ける右のような誤記の例を抽出し計算してみると(検証調書の記載による)、小幡谷候補に対する有効投票の中、平均して約三パーセントは正確な同候補の氏名を記載されていないことが明かであつて、これよりしてもその記載が一般投票者にとつて如何に複雑且困難であつたかが看取されるとともに、右に限らず、その外にもなお相当数の不明確な投票の記載が同候補に対してなされたであろうことも推測するに難くないのである。従つて、右「オバタ」各票の記載も、これを同時に行われた県知事選挙の小畑勇二郎候補に対してなされたものと速断することはできず、むしろ右のような記載の複雑、困難さに伴う書誤りと見るのが至当である。

而して、前述のように「小幡谷」の「幡」字は字劃も多く難解で一般に使用される度合も少いから、いきおいこれを比較的簡単な同音の「畑」に書誤り、あるいは「バタ」「ばた」に仮名書きすることもあり得る訳で、又一方、「小幡谷」の「谷」を誤脱する例も他の有効投票中に相当見受けられることから見ても、右「オバタ」各票を被告等の如く一概に無効と断ずるは早計にして組し得ないところである。

二、小幡谷候補は社会党に属し、数十年来無産大衆の味方として奮闘を続けて来て居り、原告主張の如く、既に県議会議員として当選四回に及び、又永く国鉄労働組合土崎工機支部の役員として労働活動を続けて来た者で現に一般大衆から特別に親愛の情を以て迎えられて居り、検証調書にも明かな如く、或は「政ちやん」等の愛称を以て呼ばれ、時には「ばたさん」「ばたやん」等の愛称を以て呼ばれることすらある。即ち小幡谷政吉という一個の人間を指称して他と区別するには「小幡谷政吉」の内、「幡」及び「政」が最も重要な要素として一般に考えられ、特に「幡」「ばた」が一番主要なポイントとなつている次第である。前記「ばたやん」「ばたさん」等の愛称も此処から派生したものと考えられるのであつて、県知事候補の小畑勇二郎氏と対比すれば、同じく「ばたさん」と呼ばれた時、それが小幡谷候補を指称するか、将又、小畑勇二郎氏を指称するかは問わずとも明かな事であつて、本件選挙に於て投票された右「オバタ」各票も従つて之を小畑勇二郎候補と混同したものとなすべきではなく、やはり当該県議会議員選挙に於ける小幡谷候補に対してなされたものと目すべきであり、このことは県内一般に比し秋田市に於ける知的水準、文化の程度、小幡谷候補者名の周知の徹底等から判断しても尚然りである。

三、又、次に、本件県議会議員選挙が行われた際には、同日、同場所で県知事選挙が行われたことは事実であるけれども、その担当者たる秋田市選挙管理委員会としては之が為特別の配慮を以て、各投票区分を明確にし、投票者が之を混同することがないように、秋田市全選挙区投票所に於て、

1、その受附を別にし、

2、その投票用紙を色分し、(県知事選挙用紙は黒色、県会議員選挙用紙は赤色)

3、右用紙の交付を別々にし、

4、投票順序を異にし、

5、投票記載所及び投票箱を明確に区分し、

6、尚且、選挙の混同を虞れて、特に投票所立会吏員をして選挙の混同を来さないよう投票者に注意させ、その他万全の措置を講じていたもので、此の結果が被告等主張の如く、市部に於ける投票者の知的、文化的水準と相俟ち、秋田県の他の投票区に比し、秋田市に於ては、選挙の混同されることが極めて少なかつたのであつて、此の結果が又、県知事選挙の小畑勇二郎候補と県会議員選挙の小幡谷政吉候補の氏名を混記することのなかつたであろう一つの証左ともなり得ると信ずるのである。なるほど、一部には右のような混同が無かつたとは言い切れないが、そのような場合、多くは小畑勇二郎候補の氏名を明記してあり、小幡谷候補の投票と混同する余地は極めて少なかつたのが事実である。

四、尚、原告が前に主張したように、小幡谷候補の氏は元来「小幡」であつて、近年「小幡谷」に改めたものであること、ぼだい寺である秋田市土崎港本住寺の過去帳、行事日割表には「小幡谷」「小幡」と混同しての記載があり、墓碑銘にも縁故者の中には同紋で「小幡」となつているものがなお存し、現在同候補宛に郵送される知人その他からの郵便物等にも「小畑政吉」「小畑屋政吉」「小畑谷政吉」等の名宛で、「畑」「屋」等の文字を使用しながら、何れも「小幡谷政吉」に対するものとして配達されていること等の事実は前叙原告側主張を裏付けるものであつて、この点からしても、之等一連の記載は勿論、仮名書きの「オバタ」「おばた」等も小幡谷候補に対するもので小畑勇二郎候補を指称するものではないことが明白である。

五、「投票は何人かを選挙しようとする選挙人の意思を表現しようとする手段であるから、たとい投票に記された文字に誤字、脱字があり又は明確を欠く点があつても、その記された文字の全体的考察によつて当該選挙人の意思がいかなる候補者に投票したかを判断し得る以上、これを有効投票として選挙人の投票意思を尊重することが、すべての選挙を基調とする代表民主々義政治の根本理念に合致するものというべきである」ところ本件同時選挙においては選挙の混同を来さないように格別の配慮と区分がなされていたこと、小幡谷候補の氏の呼称は複雑で平常でも「小幡」「小畑」「小畑屋」「小幡屋」等類似の呼名が通用していること、秋田市に於ける投票の際の同候補の氏の記載は多種多様に亘る投票が多数に上つていること、等に鑑みる時此等投票者の真意として県知事候補者の小畑勇二郎の氏を明確に記載したものと推測するのは行過ぎであつて、むしろ、当該県議会議員選挙に於ける候補者に投票したものと推測するのが投票者の真意にも添うものと信ずるのである。すなわち本件選挙の如く、投票箱も投票順序も投票用紙の交付も受附も夫々別々になされているような場合に於ては、県会議員選挙の投票箱に、県会議員選挙の投票用紙を以て、県会議員候補者の氏に類似する記載があつた点をこそ重視すべく、たとい、その中に同時に行われた県知事選挙候補者の氏に一致し、若くは類似するものが多少あつたとしても、これを選挙の混同によるものとして無効にすべきものではない。すなわち前記「オバタ」票はすべて小幡谷候補に対する有効投票とみるべきである。

六、仮りに、右主張が容れられず、県知事選挙の小畑勇二郎候補の氏と明確に一致する「小畑」の記載は、小幡谷候補に対する有効投票とは認めることができないとしても、右以外の「おばた」「オバタ」等仮名書き及び「小幡」の記載は必ずしも小幡谷候補の氏にも、又小畑勇二郎候補の氏にも明確には一致しないがその何れにも類似する投票となるか、若くは小畑勇二郎候補の氏にも一致するけれども小幡谷候補の氏にも一致する場合に相当するのであるから、これを無効とするよりは「県会議員選挙の投票用紙になされている事実」と「県会議員選挙の投票箱に投票されている事実」からその投票者の心理を推測尊重し、その記載に類似する氏、名又は氏名を有する県会議員候補者に対する有効投票と認めるを相当とすべく、之等は小幡谷候補に対する有効投票に数えられなければならない。

七、然し、仮りに百歩を譲つて、「小畑」の記載並に「オバタ」「おばた」等仮名書きに類する一連の記載が何れも小幡谷候補の有効投票と認められないとしても、「小幡」と記載された投票はあく迄小幡谷候補の有効投票と認むべきである。何となれば「小幡」は県知事選挙の小畑勇二郎候補の氏に明確に一致しないのに反し、県会議員選挙の小幡谷候補の氏に明確に一致するか、若くは之に類似する記載に相当するからである。被告は「小畑」を「小幡」と誤記する公算が極めて強いこと吾人の経験則に照し明であると強弁するが、「幡」は「畑」に比し字劃も多く一般に使用される度合からしてもその割合は小であること前述のとおりであつて、「畑」を「幡」と誤記する公算よりも「幡」を「畑」と誤記する公算の方が極めて大であると言わねばならない。又、被告は「単に小幡とある票迄も小幡谷候補に対する投票と認定することは本件の様に同時に行われた他の選挙において之と全く発音を同一にする候補者の存する場合には到底許されない」旨の主張をしているけれども、発音を同一にする候補者が二名以上ある場合には、その記載された文字に明確に一致すべき氏を有する候補者の有効投票と認むべきことは自明の理で、之よりしても被告主張は理由がないと言わねばならないし、若し、右のように「小幡」の記載が有効だとすれば、ひるがえつて、「オバタ」「おばた」等これの仮名書きの記載も有効とすべきである。

八、尚更に被告等は本件選挙に於ては県内一般の傾向として県会議員選挙と知事選挙との混同が認められ、且、秋田市に於ては県内一般に比し著しくその混同の度合の少い点から見て、「小畑」「おばた」等前記各票の記載はすべて同時に行われた知事選挙の候補者小畑勇二郎の氏を記載したものと認めるのが吾人の健全な常識に合致する旨の主張をなしているけれども、前述した如く、秋田市に於ける混同の著しく少なかつた理由は、特に選挙の混同を来さないように選挙の区分につき配慮が払われたことに主として基因するものであるところ、だから「小畑」「おばた」等と記載された投票はすべて知事選挙の小畑勇二郎候補に対してなされたものだとの結論は余りに早急すぎると思われる。仮りに被告等主張のように、県内一般の傾向として県議会議員選挙と知事選挙との混同が認められたとしても、秋田市に於てのみ混同が県内一般に比し著しく少なかつたという事実はむしろ秋田市に於ては前記の如き諸配慮その他設備の区分によつて、県内一般に見られるような同時選挙の混同は来さなかつたということを物語つていると言うべきである。そうだとすれば、勿論右の如き投票の記載の混同を来す理由も無い筈であるから、前記「小畑」「小幡」「おばた」等一連の記載も知事選挙の小畑勇二郎候補に対してなされたものでなく、秋田市選挙人の知的水準、文化の程度から見ても之を県議会議員選挙に於ける小幡谷候補に対してなされたものと解するのが相当である。被告は投票所の設備如何はこの混同の発生に影響を持たなかつたと主張するけれども、然らば秋田市に於てのみ混同の割合が県内一般に比し著しく低い理由を説明するに苦しむこととなる。これを要するに、結局、被告主張の如き、『秋田市においては小畑知事候補の姓に類似する県議候補者小幡谷候補が存在するに拘らず、「小畑」「おばた」等の投票の比率は斯様な要因の存在しなかつた他都市選挙区におけるそれの何れよりも低率であること』それ自身は、前述の如く秋田市に於ては同時選挙による混同ということは先づ考えられなかつたこと、従つて当該選挙人は何れも当該選挙区の候補者に対して当該選挙用紙により投票したであろうことが推測されること、そのことが投票者の心理を尊重する趣旨に添うことになること等に鑑みるとき、被告主張の如く混同をもたらしたことを意味するとの結論に反して、却つて選挙の混同を来したか否かを顧慮する必要がなかつた程混同をもたらさなかつたことを意味することゝなり、従つて、県知事選挙の投票用紙に記載して県知事選挙の投票箱に投票されたものはすべて県知事選挙候補者に対してなされたものとし一方、県議会議員選挙の投票用紙に記載して県議会議員選挙の投票箱に投票された分はすべて県議会議員選挙候補者に対してなされたものであるとすることに何等の障碍も来さないこととなるのである。

九、被告等引用の最高裁判所判例(昭和二四年(オ)第二七号同二五年七月六日第一小法廷判決、例集第四巻第七号一七頁)について、被告等は右判決を本件選挙と同様に異つた二つの選挙を同時に行つた場合に於ける「正に適切な」判例であるとなしている。然し乍ら本件同時選挙に於ては、前述のように受附を異にし、投票用紙の交付を別にし、投票順序を区分し、投票記載所及び投票箱を別々に配置し、且、立会吏員をして選挙の混同を来さないよう現場に於て注意を与えたのに反し、右判例の場合に於ては、「兵庫県の県会の選挙と姫路市の市会の選挙と同時同場所に於て同一投票箱を用いてせられた」もので、名は同じ同時選挙とは言つても彼我の間には本質的な差違があり、右のような状態の下で同時選挙が行われたからこそ、最高裁判所は「県会議員選挙と市会議員選挙とが同時に行われた場合においては現時における一般選挙人の知識の程度においては両者の投票を間違えてするおそれがある………」と判示したのであつて、本件選挙の如き設備と区分と配慮の下では右判示の如き投票の間違いを生ずる虞は極めて少く、最高裁判所亦、かゝる判例は残さなかつたであろう。従つて、右判例を以て同時選挙に於ける具体的事例として全面的に本件選挙に引用するには適切ということはできない。

十、被告等及び被告補助参加人両名の主張で右の主張に反する点はすべて争う。

十一、選挙会で決定した候補者加賀谷保吉、同小幡谷政吉の有効得票数には誤算があるので検証の結果に基き計算することには異議ない。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁及び主張として(甲)原告主張の本訴請求原因事実中第一乃至第六はこれを認めるが、第七乃至第十は否認する。但し原告が前記第八において主張し原告補助参加人の前記第五の三において主張する秋田市全選挙区投票所において、(2)その投票用紙を色分し(知事選挙用は黒色刷、県議会議員選挙用は赤色刷)(3)右用紙の交付を別々にし(4)投票順序を異にし(5)投票記載所及び投票箱を区分した事実は認めるが、(1)各投票所においてその受付を別にしたこと及び、(6)投票所立会吏員をして混同を来さないよう投票者に注意させた点についてはこれを争う。右のような措置がなされたのにかかわらず投票の混同のあつたことを主張する。(乙)「おばた」「オバタ」「ヲバタ」「小畑」その他これに類似する記載ある投票の効力について。

第一、本件県会議員選挙の秋田市選挙区における「おばた」「オバタ」「ヲバタ」等の投票は右選挙と同時に行われた秋田県知事選挙の候補者小畑勇二郎の氏と明確に一致する為、之は同時選挙の結果右小畑候補に対する投票と混同した無効投票であるか、或は亦、県会議員選挙の候補者中之に類似する氏の小幡谷政吉に投票する意図の下に不完全な記載を為したもので同候補者に対する有効投票と解すべきかは本件を解決すべき鍵といわなければならない。立候補制度を採つている現行公職選挙法の下において選挙人は一般に当該選挙における候補者に投票したものと推定すべく、候補者の氏名の記載が正確を欠く投票については法第六十八条の規定に反しない限り、誤字、脱字等があつても投票した選挙人の意思が明白であれば之を有効と解するのを原則とするが、一方同時選挙の場合において現時の一般選挙人の知識の程度においては両者の投票を間違えてするおそれがあるから甲の選挙の投票用紙に乙の選挙の候補者の氏、名又は氏名を明確に記載した投票があるときは、たとい甲選挙候補者中にこれと類似の氏、名または氏名のものがあつてもその者に対する有効投票とは認めることができないとすることは最高裁判所の判例である。(最高裁判所昭和二十五年七日六日第一小法廷判決)

本件は正に此の判例の適切な場合であつて知事選挙候補者小畑勇二郎の氏を明確に記載した「おばた」「オバタ」「ヲバタ」等の投票は県議候補者中にこれに類似の氏を有する小幡谷政吉があつても之に対する有効投票と認めることはできないものである。

第二、尚本件県議選挙の投票について、之と同時に行われた秋田県知事選挙の候補者殊に小畑勇二郎に対する投票との混同の状態を調査するに、県議選挙の投票中に知事選挙候補者の氏名を記載した票は秋田市以外の郡市選挙区においては各総投票数との比率が最低〇、五九%最高二、八五%において存在し、これは県内一般の傾向として認められること。然もその内当選した知事候補者小畑勇二郎の氏、名又は氏名を記載したものが圧倒的多数を占めており秋田市を除いては最低〇、四五%最高二、三八%を示す、之に対し秋田市における此の種投票は〇、三三%でその数値は他の郡市の最低を更に下廻ること。この混同は、投票所の設備がよくて設備よりする混同のおそれが少いものと考えられる投票所を有する投票区においても殆んど変らない比率が認められ、従つて投票所の設備如何はこの混同の発生に影響を持たなかつたこと、秋田市においては小畑知事候補の姓に類似する県議候補者小幡谷候補が存在するに拘わらず「小畑」「おばた」等の投票の比率は斯様な要因の存在しなかつた他郡市選挙区におけるそれの何れよりも低率であること。等の諸事実が明かである。これ等諸事実を綜合して考えると県議選挙の秋田市選挙区における此の種投票は県議候補者小幡谷政吉の氏を誤記した為生じたものではなく知事選挙の候補者小畑勇二郎に対する投票の混同であると認むべき公算最も大で現に本件選挙において斯様な混同を免がれなかつたことは先の検証において明かになつたとおり無効投票中に同時選挙の秋田県知事選挙候補者であつた古沢斐、鈴木清及び小畑勇二郎の氏名を記載したものが相当数存在した事実が端的に証明しているし、また右知事選挙における無効投票のうちその四割余が県会議員候補者の氏名を記載したものである事実(乙第二号証参照)はいかに両選挙を区別するための施設を完備し、関係事務員が混同を防ぐための注意を与えてもなお避け得ない現象であつたことを示すものである。(丙)各投票の有効無効について。

第一、候補者小幡谷政吉の有効得票中被告が無効を主張するもの、

一、同時選挙の知事選挙における候補者小畑勇二郎の氏を明確に記入してあり同人に対する投票を混同したものと認められるもの

(1) 「小畑」と記載した投票 六票

(2) 「ヲバタ」「ヲバダ」又は「オバタ」と記載した投票(検3号を含む) 四三票

(3) 「おばた」と記載した投票 一八票

(4) 「おバタ」と記載した投票 一票

小計  六八票

二、誤字冗字あるも右小畑勇二郎を表示したことが明で同人に対する投票を混同したものと認められるもの

(1) 「オバ田」と記載した投票(検2号) 一票

(2) 「ホパダ」と記載した投票 一票

(3) 「おはた」と記載した投票(検12号) 一票

(4) 「オバタ小」と記載した投票(検29号) 一票

(5) 「ナバダ」と記載した投票(検27号) 一票

(6) 「オバタヤ勇」と記載した投票(検30号) 一票

(7) 「小幡田」と記載した投票(検25号) 一票

(8) 「おた」と記載した投票(検31号) 一票

(9) 「小幡」と記載した投票 一二票

(10) 「小ゆーじ郎」と記載した投票(原告参加人も争わない) 一票

小計  二一票

三、他の候補者の氏名又は氏を記載したもの

(1) 「加賀谷保吉」と記載した投票(原告参加人も争わない) 二票

(2) 「鈴木寿」と記載した投票(原告参加人も争わない) 一票

(3) 「山信田嘉平」と記載した投票(原告参加人も争わない) 一票

(4) 「おぎはら」と記載した投票(原告参加人も争わない) 一票

(5) 「おぎわら」と記載した投票(原告参加人も争わない) 一票

小計  六票

四、他の候補者の名を記載してあり何れの候補者に対する投票であるか確認し難いもの

(1) 「小幡谷保吉」と記載した投票 四票

(2) 「おばたややしきつ」と記載した投票(検21号) 一票

(3) 「おばたやすきち」と記載した投票 一票

小計  六票

五、小幡谷政吉の氏名を記載したものと認め難いもの

(1) 「オバタマサジロウ」と記載した投票(原告参加人も無効を認めている) 一票

(2) 「小バタマサタロー」と記載した投票(検32号) 一票

(3) 「オバタマサキ」と記載した投票(検69号) 一票

小計  三票

六、判読できない文字の記載あるもの

(1) 「畑」と記載した投票(検18号) 一票

(2) 「」と記載した投票(検19号) 一票

(3) 「小」と記載した投票(検20号) 一票

(4) 「オバカカ」と記載した投票(検24号) 一票

小計  四票

七、他事を記入したもの

(1) 「小バタヤ○」と記載した投票(検1号) 一票

(2) 「◎小幡谷政吉」と記載した投票(検23号) 一票

(3) 「政吉さんへ」と記載した投票(検22号) 一票

小計  三票

合計  一一一票

第二、候補者小幡谷政吉の有効得票中候補者加賀谷保吉の得票に数えるべきもの

前出 第一、三(1) 二票

第三、無効投票中候補者加賀谷保吉に対する有効投票と認むべきもの

(1) 「」と記載した投票(検10号)

第二字は「賀」の誤りである。即ち「加賀」と記載したものであるが候補者中に加賀という者は居らないから之に最も近い加賀谷候補に対する投票と解すべきである。

(2) 「カガ」と記載した投票(検11号)

第三字は「ヤ」を書こうとして教育程度が低い為運筆を誤つたものと認められる。

(3) 「カカマス」と記載した投票(検14号)

之亦第三字は「ヤ」を書こうとして「マ」に近い形になつたもので、第四字は「ス」と判ぜられるから「カカヤス」即ち加賀保であり、加賀谷候補の俗称を記載したもの。

(4) 「カヤ」と記載した投票(検15号)

候補者中に「カヤ」と言う者は他に居らないから「カガヤ」の「ガ」を脱したものか或は加賀谷候補の氏と名の各頭を略記したものと認めるのが相当である。

(5) 「加賀谷直治」と記載した投票

候補者中他に「直治」の名を有する者は居らない。又同一氏名の著名人も実在しない。氏は加賀谷候補に一致するから之は名を誤記したものと認め加賀谷候補の得票とすべきである。

(6) 「カカヤキ」と記載した投票(検38号)

之は書字稚拙であるが「カカヤキヂ」と書いたものである。加賀谷保吉を当地方の訛音で発音すれば「カガヤヤスキヂ」である。教育程度が低く書字能力の薄弱な人は書き馴れぬ文字を書く時には著しく文字を脱するものである。この場合も「カガヤヤスキヂ」と書こうとして先づ「カカヤ」と書き「ヤスキヂ」の「ヤ」を「カカヤ」の「ヤ」で間に合せ次の「ス」を脱かし単に「キヂ」とのみ記載したものである。とも角「カカヤ」と正しく書いているから加賀谷候補に対する投票であることは明である。

(7) 「加賀(かかヤ)シキツ」と記載した投票(検30号)

之も「加賀谷」と書きかけて漢字を諦め傍に「かかや」と書き添え「ヤシキツ」の「ヤ」を「かかや」の「や」で代用したものである。

(8) 「」と記載した投票(検40号)

拙劣極まるが第一字は「加」であり第二字は「口」の様に見えるが「々」であり、第三字は「谷」と書こうとしたものと判ぜられる。第四字は恐らく「保」を書こうとしたものである。

即ち辛うじて「加々谷保」と判読できるから之は加賀谷候補に対する有効票に数えるべきものである。

合計 八票

第四、無効投票中原告補助参加人の候補者小幡谷政吉の有効投票なりと主張するものに対する被告の反駁

一、「ヲバタ」「オバタ」「オハタ」「おばた」「OBata」「小ばた」「小畑」等と記載した投票は同時に行われた知事選挙の候補者小畑勇二郎の氏と明確に一致して居り右小畑候補を表示したものと推測するのを相当とし、知事選挙の投票用紙と県会議員の投票用紙を混同したものか、或は右小畑勇二郎を県会議員の候補者と錯誤したものに因ると認められるから之等投票を小幡谷候補に対する投票と認めることは到底できない。

二、「大ばた」「大バタ」と記載した投票も小(オ)を大(オオ)と誤つたものと考えられるので前同様の理由から小幡谷候補に対する投票とは認め難い。

三、無効投票中に「小幡」と記載したものが七票存する。原告補助参加人は該票は小幡谷の谷の脱字であつて同候補者に対する有効投票と為すべきであると主張する。然しながら小幡と小畑とは全く同一の発音であり、小畑を小幡と誤記する公算が極めて強いこと吾人の経験則に照し明である。之に反し小幡谷姓の識別において「谷」には極めて重要性があり、之を脱する公算は比較的少く、之は加賀谷候補に対する投票において谷を脱する公算と略同一であるべきである。ところが本選挙において加賀と記載した票は加賀谷候補の有効投票中五票、無効票中一票(検第10号)合計六票に過ぎないのに「小幡」と記載した票は小幡谷候補の有効票中十二票、無効票中に七票合計十九票の多きに上つている。之は全く同時選挙の知事候補者小畑勇二郎に対する投票を小幡と誤記して県会議員選挙の投票に混同したことに原因したものと認めざるを得ない。「小幡政吉」とある投票はその名の記載と相俟ち全体として小幡谷政吉に対する投票と認めることは理由のあるところであるが、それだからと言つて単に「小幡」とある票迄も小幡谷候補に対する投票と認定することは本件の様に同時に行われた他の選挙において之と全く発音を同一にする候補者の存する場合には到底許されないものであると思料する。更に附言すれば加賀、カガ、ガガ等加賀谷の谷(ヤ)を脱したと認められる投票は有効票、無効票を通じて合計八票に過ぎないところ、「小畑」「ヲバタ」「ヲバダ」「おばた」「おバタ」「オバ田」「小ばた」「大バダ」「小幡」「OBata」等の票は有効票中八十七票、無効票中百二十一票合計二百八票の多きを算することは之等の票の大部分が同時に行われた知事選挙の候補者小畑勇二郎の氏を記載したものと認めるのが吾人の健全な常識に合致するものと謂わざるを得ない。而して加賀若しくはカガ等の票が谷又はヤを脱しているに拘わらず加賀谷候補の投票と認めるのを相当とする理由は、加賀谷候補の氏に最も近似し、且県会議員候補者にも、同時選挙の知事選挙候補者中にも之に符合し又近似する氏を有する者が加賀谷候補を措いて他に存在しないからに外ならない。

四、第一開票区の「おばたやしろ」と記載した投票は候補者小泉四郎の名と混記したもの、又第五開票区の「小幡谷保吉」と記載した投票は候補者加賀谷保吉の名と混記したものであつて候補者の何人に投じたものか確認し難いものとして無効にしたのは当然である。

第五、候補者加賀谷保吉に対する有効投票中原告参加人等が無効を主張するものに対する被告の意見

(1) 「加賀」と記載した投票(検42号)

候補者中「加賀」というものは存在しない。従つて之は最も近似性ある加賀谷候補の谷を脱したものと認むべきである。

(2) 「カガヤシ」と記載した投票(検43号)

「カガヤス」(加賀保)の訛音を記載したものである。

(3) 「カヤ」と記載した投票(検44号)

「カガヤ」の「ガ」を脱したか、或は氏と名の第一字を結合略記したものと考えられるが何れにせよ加賀谷保吉候補に対する投票であることが確認できる。

(4) 「賀谷保吉」と記載した投票(検45号)

加賀谷の「加」を脱したものであること明である。

(5) 「加賀谷保吉」と記載した投票(検46号)

末尾にあるのは「さん」の敬称と認められる。

(6) 「」と記載した投票(検47号)

書き損じを抹消したもので有意の他事記入ではない。

(7) 「賀(カガヤ)保吉」と記載した投票(検48号)

賀と書いて「カガヤ」と振り仮名したもので加賀谷候補に対する投票であること明白である。

(8) 「」と記載した投票(検49号)

頗る稚拙であるが加賀谷保吉と書こうとしたものであることは明白である。

(9) 「」と記載した投票(検50号)

加賀谷保吉の略記である。

(10) 「かカや―」と記載した投票(検54号)

「かかやし」と判読できる。

(11) 「かかやしかしきち」と記載した投票(検55号)

「かかやし」と書き更に「やしきち」(保吉)と附加したもので加賀谷保吉に対する投票であることは明白である。

(12) 「カガヤヤち」と記載した投票(検56号)

「やすきち」と書こうとして「す」を左文字に書き「き」を脱したもの。

(13) 「加賀」と記載した投票(検57号)

第三字は「谷」の誤記と認められる。

(14) 「カーセ」と記載した投票(検58号)

「カヽヤ」と書いたものである。

(15) 「カガア」と記載した投票(検59号)

第三字は「ヤ」の誤記である。

(16) 「ガヤ」と記載した投票(検60号)

第一字第二字は「カガ」と書こうとして無学の為誤記したもの。

(17) 「加賀谷直吉」と記載した投票

(18) 「加賀谷保次郎」と記載した投票

以上は何れも加賀谷保吉の名と各一字は共通している。候補者中之等の氏名を有する者は居らない。最も近似する加賀谷保吉に対する投票と認むべきものである。

(19) 「加賀」と記載した投票(検66号)

第三字は「安」(保)と書こうとしたものである。

(20) 「ゆうきち」と記載した投票(検70号)

「やすきち」と書くべきを記憶違いで誤つたもの。「ゆうきち」と言う候補者は居らない。

(21) 「加賀」と記載した投票

前記(1)に同じ。

(22) 「加賀屋末吉」と記載した投票(検65号)

「屋」は「谷」の誤まり「末」は「保」を書き誤まつたもの。末吉の名の候補者は居ない。

(23) 「」と記載した投票(検67号)

文字の順序を書き誤つたものであり、之を判読できる様に順序を数字で書き表わしたもの。他事記入と謂うべきではない。

(24) 「かがす」と記載した投票(検71号)

加賀谷保吉の略称「かがやす」と書くべきを「や」を脱したもので「かがやす」の意味と判読できる。

(25) 「カカキ」と記載した投票(検72号)

第三字は「ヤ」と書こうとして書字能力薄弱の為「キ」に近い字となつたものでカカヤと判読できる。

(26) 「カヤ」と記載した投票(検73号)

前記(3)に同じ。

(27) 「カヤシ」と記載した投票(検74号)

「カガヤシ」(カガヤスの訛音)と書こうとしてガを脱したもの。

(28) 「カガス」と記載した投票(検75号)

「カガヤス」と書こうとして「ヤ」を脱したもの。

(29) 「加賀」と記載した投票(第七開票区)

前記(1)に同じ。

(30) 「カガヤホリキツ」と記載した投票(検76号)

保吉即ち「ホーキツ」と書こうとして長音符号を書き誤まり「り」に近くなつたもの。

(31) 「カガヤキスキチ」と記載した投票(検77号)

ヤスキチと書こうとして「ヤ」を「キ」に書き誤つたもの。

(32) 「」と記載した投票(検77号)

「安次郎」と書こうとしたものであつて保吉の記憶違いである。安次郎名の候補者も居らない。

(33) 「」と記載した投票(検79号)

「アンコ」は秋田県下においては若い者若衆の意味で蔑称ではない。保吉というのは代々加賀谷家当主の家名で現保吉候補も之を襲名した者であるが加賀谷の「アンサン」と通称されている。「アンサン」の意味で「アンコ」と書いたものである。

(34) 「カガヤスギ」と記載した投票(検80号)

加賀谷保吉の当地方における訛音「カガヤヤスギヂ」であるが書記能力薄弱の為重複する「ヤ」を脱し最後の「ヂ」を脱したもので「カガヤヤスギヂ」と判読することができる。

(35) 「」と記載した投票(検81号)

第四字は「保」の誤記とも思われるが氏は明白であるから加賀谷候補に対する投票と認められる。

(36) 「加賀久保吉」と記載した投票(検83号)

第三字は「谷」の誤記であること明である。

(37) 「カガハヤシキソ」と記載した投票(検84号)

「カガヤヤシキツ」の誤記と判読できる。

(38) 「ガガ」と記載した投票(検85号)

「カガヤ」と書こうとして「ヤ」を脱したものである。

(39) 「かヤカ」と記載した投票(検87号)

第一字は「カ」第二字は「ヤ」第三字も稚拙であるが「ヤ」第四字は「キ」と「チ」を組合せ一文字にしたもの即ち「カヤヤキチ」と判読できる。これは第一字と第二字の間に「カ」を脱し第三字と第四字の間に「ス」を脱したもので教育程度低く平素文字を書き馴れぬ者がうろ覚えの仮名を記載したもので加賀谷候補に対する投票と認むべきである。

(40) 「ガガカ」と記載した投票(検88号)

第三字稚拙なるも「ヤ」と認められる。「ガガヤ」即ち加賀谷である。

(41) 「賀吉」と記載した投票(検89号)

「加」を脱し「保」を誤記しているが「保」の意味を示す為特に「ヤ」と振仮名したもので加賀谷保吉を指すものであることが判ぜられる。

(42) 「カガヤヌスキケ」と記載した投票(検90号)

「カガヤ」は明白である。第四字は「ヤ」を書き違つたもの、末尾は「チ」の誤記。

(43) 「カヤス」と記載した投票(検91号)

加賀保の略記。

(44) 「カガス」と記載した投票(検92号)

「カガヤス」の「ヤ」を脱落したもの。

(45) 「加賀」と記載した投票(検93号)

検57号と同様第三字は「谷」の誤記。

(46) 「カガ」と記載した投票(検94号)

前記(38)に同じ。

(47) 「加賀」と記載した投票(検95号)

前記(1)に同じ。

(48) 「加賀」と記載した投票(検96号)

前記(1)に同じ。

以上のとおりであるから加賀谷保吉の得票は小幡谷政吉の得票をはるかに超えているから原決定は正当であり、原告の本訴請求は失当として棄却せらるべきである。

第六、選挙会で集計した加賀谷、小幡谷両候補の得票数には誤算があるので投票検証の結果に基き算定することには異議ない。

被告補助参加人加賀谷保吉代理人の陳述は次のとおりである。第一昭和三十年四月二十三日県議会議員と知事選挙とが同時施行せられた。其の結果として、

(一) 県会議員の投票用紙に知事候補者の氏、名又は氏名を明確に記載したもの。

(二) 知事の投票用紙に県会議員の候補者の氏、名又は氏名を明確に記載したもの。

(三) 両選挙の候補者の何れにも類似する氏、名又は氏名を明確に記載したもの。

のあることは開票の結果明瞭となつた。

以上の結果は要するに今日の一般選挙人の知識程度では両者の投票を誤る公算の著しきものがあることを示すのである。第二而しながら前記(一)、(二)に付きては相互に他の選挙候補者に類似の氏、名及び氏名の類似のものがあるとするも其者に対する有効投票と認めるに由なきものである。従つて本件に於ては同時に行われた知事選挙に小畑勇二郎が立候補したこと顕著な事実であるから「小畑」と記載された投票は知事候補者の姓を明確に記載したもので無効であることは言を俟たない又「おばた」「をばた」「オバタ」「おはた」「オハタ」と記載せられたるものは知事候補者小畑の姓の仮名書のもので之を県会議員候補者小幡谷政吉の氏、名又は氏名に類似すると見るは当を得ず当然(一)の範疇に入るべきもので無効である。第三「小幡」「大バタ」は右の(三)両選挙の候補者の何れにも類似する氏、名又は氏名を記載したもので明確に両選挙の候補者の氏又は名及び氏名に合致せぢるもので且つ左記の如き諸般の事情より無効とすべきものである。

1、前示の如く知事選挙に小畑勇二郎が立候補している事実。

2、選挙人は県会議員の投票用紙に独り小畑勇二郎ばかりでなく他の知事候補者鈴木清、古沢斐を記載したるもの相当数あり又一方独り秋田市の選挙区ばかりでなく秋田全県に渉り投票用紙の誤謬から知事候補者小畑勇二郎へ投票したものと推測せらるゝ投票多数ある事実は明かに同時選挙による投票用紙の錯誤より来るものであることを示すといわねばならない。第四「小幡」の票が小幡谷政吉の有効投票なりと主張するも「小幡」は「小畑」と語音同一で之を仮名書するときは全く同一であるから仮名書は前述の如く小畑知事候補の氏として小幡谷政吉の得票に加へらるべきものではないが漢字を以て記載せられている場合に於ては所謂類似投票として最も近き小幡谷政吉の得票とすべきが如く思料せらるるも本件の如き同時選挙であり而も知事候補者に「小畑」と言う語音を同じくする候補者ある場合は自ら別個に考えらるべきである。最高裁判所は県会議員選挙の投票用紙に「ホンダ」と記載されたものは市会議員選挙候補者中本田姓ある以上は之を県会議員候補者中の類似者の有効投票とすることは出来ないと判決したが之は正に本件の場合に採用すべきものである。敢て「小幡谷」の「谷」の脱字として取扱うべきものでない。第五「おばた」「をばた」「オバタ」「大バタ」「おはた」「オハタ」と記載せられた投票は同時選挙に於て「小畑」なる姓を有するものが立候補者たる以上「小幡谷」を之の類似投票として有効の取扱を許さない。第六検番号を付したる投票に付主張すること左の如し。

検1号

他事記入で無効。

検2号

「オバ」は「オバ田」であり無効。

検10号

「」の「」は「カ」を書こうとして失敗し側に「賀」を書いたもので有意の記載でないから有効。

検11号

「カガ」の「」は「ヤ」を書こうとした意志が観取されるから有効。

検12号

「おはた」は「おばた」と認められ無効。

検14号

「カカマ」の「マ」は「ヤ」を書こうとした意思が明白であり「」は「ス」で即ち「カカヤス」であるから有効。

検15号

「カヤ」は候補者中「カヤ」と言う氏や名の者が居らず「ガ」の脱字即ち「カガヤ」と認められ有効。

検18号

「畑」は候補者中畑の氏名の者はなく音だけ「小幡谷」の第二字と同じ「ハタ」であるが又小畑知事候補の「畑」と同じでもあるが姓の第二字の文字で当該姓を現わすとは考えられず無効。

検19号

「」は文字ではないし、かりに「畑」の誤記としても前号同様の理由で無効。

検20号

「小」の「」は「畑」の誤字であると認められ即ち「小畑」であるから無効。

検21号

「をばたややしきつ」と認められ小幡谷、加賀谷両候補の氏名混記で無効。

検22号

「政吉さんへ」の「へ」は有意の記載であることが明かで他事記入であるから無効(行政裁昭和七年第一七九号参照)

検23号

他事記入で無効。

検24号

小幡谷、加賀谷の何れに投票したか判読出来ず無効。

検25号

「小幡田」は「小幡」と記載した投票と見るべく同時選挙に於て小畑の立候補ある以上無効。

検27号

「ナバ」は「オバダ」とも認められるし又何人を記載したか確認し難きものに該当するとも思われるから無効。

検28号

何人に投票したか判読し難きもので無効。

検29号

明かに小畑知事候補を表示したもので無効。

検30号

「オバタヤ勇」の「勇」は「小畑勇二郎」を意思した積極的な表示と推測される文字であるから無効。

検31号

「おた」の「」は不完全乍ら「ば」を書こうとしたものと認められ「おばた」であるから無効。

検38号

「カカヤキ」は「カカヤキヂ」即ち「ヤス」の脱字で有効。

検39号

明かに有効。

検40号

「」の「口」は「々」、「」は保、「」は吉を書こうとして努力したものと判断され即ち「加々保吉」で加賀谷保吉の谷の脱字であるから有効。

検42号

「加賀」は加賀谷の谷の脱字で有効。

検43号

「カガヤシ」と判読され「シ」は「ス」の訛音(秋田は所謂ズーズー弁の国で「シ」と「ス」の区別のない者が多い)で有効。

検44号

「カヤ」は「カガヤ」の「ガ」の脱字であること明かで有効。

検45号

「賀谷保吉」は加賀谷保吉の加を脱字したもので有効。

検46号

「加賀谷保吉」の「」は「くん」と判読され敬称であるから有効。

検47号

「」の「」は書き誤りを消したもので有意の他事記入でなく有効。

検48号

「賀(カガ)ヤ保吉」は「賀」を書いてカガヤと振仮名したもので加賀谷保吉に投票したこと明かであり有効。

検49号

最初「保加」と書いて消したものと認められ有意の記載でないから有効。

検50号

「加賀保」は加賀谷保吉の通称を記載したもので有効「」は有意の記載でなく誤を消したものである。

検54号

「かがや―」は「かがやし」と判読され即ち「かがやす」の意であるから有効。

検55号

「かかやしかしきち」は「やしきち」の誤であるから加賀谷保吉への投票であること明かである。

検56号

「カガヤヤち」の「」は「す」と書こうとして逆に書き「き」を脱字したもので加賀谷候補に対する投票であること明かである。

検57号

「加賀」の「」は谷の誤記と認められ有効。

検58号

「カゝヤ」と書いたもので有効。

検59号

「カガマ」は「カガヤ」と書こうとした意思は明かであつて有効。

検60号

「ヤ」は「カガヤ」の誤記であること明かであり有効。

検65号

「加賀屋末吉」は谷を屋と誤記したものであり又末は保を書き誤つたものであり有効。

検66号

「加賀谷」は名の書き誤りであることは稚拙な文字からも明かで有効。

検67号

「」は文字の順を誤記して読み方の順を数字で示したもので有意の他事記載ではない。

検69号

「オバタマサキチ」は小畑知事候補と小幡谷政吉候補の氏名の混記で無効。

検70号

「ゆうきち」は記憶違いで名を「ゆうきち」と書いたもので他に「ゆうきち」と言う名の候補者も居ない。

検71号

「かがす」は「や」の脱字で有効。

検72号

「カカ」の「」は明かに「ヤ」と認められ有効。

検73号

「カヤ」は「ガ」の脱字で有効。

検74号

「カヤシ」は「ガ」の脱字で「カガヤシ」即ち「カガヤス」と書こうとしたこと明かであり有効。

検75号

「カガス」は「ヤ」の脱字であり有効。

検76号

「カガヤホリキツ」は保吉「ホーキチ」の書き誤りで有効。

検77号

「カガヤキスキチ」は第四字「キ」は「ヤ」の書き誤りであり有効。

検78号

「」は「安次郎」と判読出来保吉の記憶違いから誤記したものであり有効。

検79号

「」は一旦「保吉」と書いたが保吉は代々加賀谷家の家名であり現在の保吉は旧名廉治であり保吉を襲名した関係上当主の名は何と言うか判然と記憶しない者もあり加賀谷家の若い者と言う意味で「アンコ」と書いたもので有効。

検80号

「カガヤスギ」は「カガヤヤスギチ」と書こうとして「ヤ」、「チ」を脱字したものであり有効。

検81号

「加賀谷」の「」は旧名を書こうとしたか或は保の誤記か何れにしても加賀谷と明記してあるから有効。

検83号

「久」は「谷」の誤記であることは明かであり有効。

検84号

「カガハヤシキソ」は「カガヤヤシキツ」と書こうとして誤つたものと確認出来有効。

検85号

「ガガ」は「ヤ」を脱字したもので有効。

検86号

「オハタ」と判読出来即ち「小畑」で無効。

検87号

「」は「ヤ」「」は「キチ」と判読出来る。即ち「カガヤヤスキチ」と書こうとして文字を書きなれぬ為誤記したことは文字の稚拙な点からも認めることが出来るもので加賀谷候補への投票である。

検88号

第三字は「ヤ」と判読出来即ち「ガガヤ」で加賀谷候補への投票である。

検89号

「加賀谷」と書こうとして「加」を脱字し、「保」を「」と誤記して意味を表わす為「ヤ」と振仮名したもので加賀谷候補への投票と認めることが出来る。

検90号

第四字は「ヤ」の誤記末字は「チ」の誤記で「カガヤヤスキチ」と判別出来る。

検91号

「ガ」の脱字で「カガヤス」の意であること明かで有効。

検92号

「カガス」は「カガヤス」の「ヤ」の脱字で有効。

検93号

第三字「」は「谷」の誤記で即ち「加賀谷」である。

検94号

「ヤ」の脱字であり有効。

検95号

「谷」の脱字であり有効。

検96号

「谷」の脱字であり有効。

第七検番号を付していない投票で既に主張したものを除き主張の必要があると認められる投票に付いて左の通り主張する。

(一) 「おばたやしろ」と記載した投票(第一開票所の無効投票中)の「しろ」は候補者小泉四郎と小幡谷候補の氏名混記で無効。

(二)(イ) 「小幡谷保吉」と記載した投票(第四開票所)は「加賀谷保吉」と小幡谷候補との氏名の混記で仙高裁昭和二十六年(ナ)第八号の「候補者中に四戸徳蔵及工藤福蔵と云う者がある場合に於て「四戸福蔵」と記載された投票はそのいずれの候補者に投票されたものか確認しがたいから無効である」との判例に該当するもので無効である。

(ロ) 「加賀谷直吉」「加賀谷保次郎」と記載した投票(第四開票所)は何れも「加賀谷」と確認されるもので他に類似の候補者も居ないから有効である。

(ハ) 「大バタ」と記載した投票(第四開票所)は「オバタ」で無効。

(ニ) 「加賀谷直治」と記載した投票(第四開票所)は加賀谷保吉の有効投票である。「加賀谷直治」という県会議員は嘗つて存在したが去る昭和二十八年三月二十三日に現職中議員公舎に於て心臓病で急死し当時魁新報其の他各紙に大々的に報道されて周知の事実である。而して歴史的人物を書くとか不真面目な投票は別として何人も死者に投票する者はなく又同人は南秋田郡五城目町の住人で秋田選挙区からは一回も立候補したことがなく且つ此の如き投票は僅か一票で同様の投票が何十票とか数ある場合と違つて特に加賀谷候補以外の者に投票したと推定される著しい事情はない。又加賀谷候補は秋田地区で過去十五年間県議に在職したことがあり明治年代なら加賀谷候補の曾祖父初代加賀谷保吉やその他加賀谷姓の県議が居つたが少くとも昭和に入つてからの加賀谷姓の県議は加賀谷候補と昭和二十二年に初当選の加賀谷直治以外になく加賀谷候補は昭和四年から同十二年迄土崎町長をつとめ地方的有名人で加賀谷県議と言えば加賀谷保吉と思い込んでいるものが多く加賀谷直治が副議長となつたとき保吉が副議長になつたと誤認したものが相当あつた事実に徴しても加賀谷直治一票は故加賀谷直治を表示したものと推断すべき強い事情が認められないから加賀谷候補を意思したものと言わなければならない。

(三) 「小幡谷保吉」「おばたやすきち」と記載した投票(第五開票所)は前記(イ)と同様で無効。

(四) 「ホパダ」と記載した投票(第十開票所)は「オバタ(小畑)」を表示したものと認められるから無効。である。第八原告補助参加人が昭和三十一年二月十六日付準備書面第二において列挙する各投票についてはその無効なることを主張しない。

被告補助参加人豊間サダ子代理人の陳述は次のとおりである。

第一、「小畑」「小幡」「おばた」「をばた」「オバタ」「ヲバタ」「大バタ」「おはた」「オハタ」(以下おばた票と略称する)と記載された投票は無効である。蓋し立候補制度を採つた選挙に於ては、各投票は候補者中の一名に向けられたものと認む可きであつてたとえ完全明確でない投票であつても、それが誤字、脱字と認められる限り類似の氏名の候補者の有効投票と推定しなければならないけれども、投票の記載並に選挙の当時に於ける諸般の事情に徴して投票の記載が当該選挙の候補者以外の何人かを表示したものと推測すべき強い事実が認められる場合には右推定を覆して右の候補者でない者に対して投票したものと解するのが当然である。之を本件に就いて見るに、本件選挙と同時に行われた秋田県の知事選挙に小畑勇二郎が立候補したことは争なき事実である。よつて「おばた」票は同知事候補の氏を誤つて県会議員の投票用紙に記載したものであつて、それは次の各理由によつて明白である。一、県会議員の無効投票中に知事候補者の小畑勇二郎、古沢斐及鈴木清の投票が相当数混入して居たことは検証の結果に徴して明である。これは云う迄もなく秋田市の県会議員選挙区の選挙人中にも知事の投票用紙と県会議員の投票用紙とを取り違えて記載した者のあることを立証するものである。二、秋田県選挙管理委員会は先きに本件に関する被告参加人等の異議申立を裁決するに当り之が資料として全県各県会議員選挙区の無候投票を点検調査した所、小畑知事候補と類似氏名の候補者の居らない選挙区でも例外なく多数の「おばた」票を混入していたことが明にされている。(本件に関する県選管の裁決書参照)此の事実は、もとより県議選挙と知事選挙との投票用紙を錯誤して投票した選挙人のあつたことを意味するものである。三、去る四月二十三日執行の本件選挙並に同日執行の知事選挙の無効投票率は本年二月二十七日執行の衆議院議員選挙に比し著るしく上昇しておるのである。県議選無効の投票率が甚だしく高率になつているのは即ち同時選挙による投票用紙の錯誤に原因するものであることは、容易に推定し得る所で恐らく之は全国的な傾向で顕著な事実であろう。以上の傾向からも本件選挙に投票用紙を錯誤して投票した選挙人があつたことを推測し得るのである。四、秋田県選挙管理委員会は本事件の裁決に当り之が資料とする為全県の知事選挙の無効票を点検、調査しているが、其の結果は県会議員候補者の氏名を誤記した投票が驚く程多数に上つている。而して秋田市に於ける第一開票所から第十開票所(秋田市県議選挙区と同一の範囲)迄の無効投票合計二、二五九票の中県議候補者の氏名を記載したもの、九〇九票になつている。此の事実も又同時選挙の場合は如何に投票用紙を取違えて記載する選挙人が相当多数あつたかを示しているものである。五、加賀谷保吉候補の投票中「谷」「ヤ」を脱字したものは合計僅に八票に過ぎないことは検証調書が之を示している。而して共に「谷」が氏の三字目に付されている小幡谷候補の「谷」や「や」等の脱字のある投票が二百票以上あるのに加賀谷候補の「谷、や、ヤ」の脱字のある投票が八票に過ぎないと云うことは、同じ条件下に於ては到底推定することは出来ないのであつて、此の間に何等か特別の事情が存するものとの判断が成立するものと信ずる。此の場合特別の事情とは前記の通り同時選挙の為め知事の用紙に県議候補の氏、名又は氏名を誤つて記載し一方県議の用紙に知事候補の氏、名又は氏名を誤つて記載し、而して圧倒的投票のあつた小畑知事候補の氏を誤つて県議の投票用紙に記載した選挙人が相当多数あつたことであると断定しなければならないのである。六、原告は本件訴状に於て「おばた」票を小幡谷政吉の有効投票であるとする理由として「旧秋田市の凡ての投票場の投票函は知事と県議の分とを明確に区別してあつたこと」や「投票に当り選挙人に対し用紙を手交する際関係事務員から用紙の色枠其の他につき両者の区別を口頭で注意して居つた」ことをあげて選挙人は両者を混同して投票する様の事無く云々と記述しているが、果して然りとすれば、少くとも秋田市選挙区に於ては、県議の投票用紙に知事候補の小畑勇二郎、古沢斐、鈴木清の氏名を記載したものが現れたり又同時、同室、同設備、同条件下に行われた知事の投票用紙に県議候補の氏や氏名を記載したものが多数現れることは絶対にあり得ない筈であるに拘らず、事実は全く之と相反していることは、原告の知事と県議の投票用紙を混同した投票はないと主張する論旨は全くいわれのないものである。

第二、所謂同時選挙に関しては其相互間の影響を無視することの出来ない趣旨の裁判例が多数存し本件の主なる争点である「おばた」票の効力如何は之等の判例によつて既に解決された問題であると確信する。原告が主張する「おばた」票は「や」の脱字に基因すると云う第八の(ロ)の理由(A)(B)はよし肯定されるものであつても単独選挙の場合に適用される範疇を出でないものであり且同時選挙と云う特別な事情を無視した主張であるから理由のないことは明白である。一、右第八(ロ)(A)に小幡谷候補の先代は元「小幡」姓であつたと主張しているが、同人の先代即ち義父小幡谷常助は嘗つて「小幡」姓を名乗つたことはないばかりでなく、小幡谷家は本家小幡谷儀三郎から明治九年二月に分家となり小幡谷熊蔵が一家を創立してから中途で「小幡」と改姓したこともない。

土崎で「おばたや」を「おばた」と呼んでいるものが相当多いと主張するが、小幡谷候補は此度此で三回目の県議選への立候補であり過去八年間も県議に在職しており、又以前に土崎町議も勤めており土崎では一有名人であつて一般に「おばたや」で通つており通常間違つて呼ぶ者はない。又同家の墓は土崎港旭町、本住寺にあり墓背に明治三十六年・旧八月小幡谷常助とあり花立にも小幡谷と刻している。二、右第八(ロ)(B)の約十年前迄菓子製造業を営んでいたから小幡谷の「谷」は商家の屋号の「屋」で姓は小幡と思つているものが同候補の知人にも相当あると主張するが、当時同家は恵比寿か大黒天の面を看板として其面型のパンを売出しておつた所から附近の者は「おばたやの面パン」と呼んでいたものである。併し此事実をもつて「谷」が屋号であつて姓を「小幡」と誤認する格別の根拠があるとは思われない。大体土崎の地は古い港であつて旧藩時代は殷賑を極め諸国の商賈が盛んに往来した為に其処に縁故が生じ古来国の名をとつて氏としたものが多く就中「谷」若しくは「屋」を付したもの頗る多く、例えば加賀谷、越中谷、越前谷、能登谷、越後谷、三国谷、播摩谷、近江谷、唐津谷、長門屋、岩見屋、出雲屋、四国屋、讚岐屋、伊勢谷、敦賀屋、佐渡谷、紀の国谷、丹後谷、泉谷、大和谷、尾張谷、甲州屋、奥州谷、仙北谷等数うるに暇無く、郷土史家の言によると土崎で国の名をとつた姓は四十幾種類に上り、之は全国で全く異例であるとしているが、其国名をとつた姓の中で過半数の二十幾種類に「谷」若しくは「屋」がついており土崎には幾百千の「谷」、「屋」付きの姓がある。従つて、土崎の土地柄は寧ろ姓が「おばた」と云う名の商人があつて「おばたや」の屋号を称している場合に姓の「おばた」をおばたやと通称し勝であり、この逆に小幡谷の「谷」が屋号の「屋」であると誤り易いものがあるという風な主張は土崎では不自然の感を免がれない。其他の理由も特別に「谷」「や」の脱字の原因になるものとは到底認め難い。

第三、

一、検証の際検番号を付した投票で主張を要すると認め且既に主張したものを除いて左の通り主張する。

(1) 検1号

他事記入で無効。

検2号

「オバ」は「オバ田」であり無効。

検10号

「」の「」は「カ」を書こうとして、失敗し側に「賀」を書いたもので有意の記載でないから有効。

検11号

「カガ」の「」は「ヤ」を書こうとした意思が観取されるから有効。

検12号

「おはた」は「おばた」と認められ無効。

検14号

「カカマス」の「マ」は「ヤ」を書こうとした意思が明白であり「ス」は「ス」で即ち「カカヤス」であるから有効。

検15号

「カヤ」は候補者中カヤという氏や名の者が居らず「ガ」の脱字即ち「カガヤ」と認められる。

検18号

「畑」は候補者中畑の氏名の者はなく音だけ「小幡谷」の第二字と同じ「ハタ」であるが又小畑知事候補の畑と同じでもあるが姓の第二位の文字で当該姓を現わすとは考えられぬから無効。

検19号

「」は文字ではないし、かりに「畑」の誤記としても前号同様の理由で無効。

検20号

「小」の「」は「畑」の誤字であると認められ即ち「小畑」であるから無効。

検21号

「をばたややしきつ」と認められ、小幡谷、加賀谷両候補の氏名の混記で無効。

検22号

「政吉さんへ」の「へ」は有意の記載であることが明で他事記入であるから無効(行裁昭和七年第一七九号及最高裁昭和二九年(オ)第八三二号参照)

検23号

他事記入で無効。

検27号

「ナバダ」は「オバダ」とも認められるし又何人を記載したか確認し難きものに該当するとも思われるから無効。

検29号

明に小畑知事候補を表示したもので無効。

検30号

「オバタヤ勇」の「勇」は「小畑勇二郎」を意志した積極的な表示と推測される文字であるから無効。

検31号

「おた」の「」は不完全乍ら「ば」を書こうとしたものと認められ「おばた」であるから無効。

検38号

「カカヤキ」は「カカヤキヂ」であり、ヂは「チ」の訛音で明に有効。

検39号

明に有効。

検40号

「」の「口」は「々」「」は「保」「」は「吉」を書こうとして努力したものと判断され即ち「加々保吉」で即ち加賀谷保吉の谷の脱字であるから有効。

検43号

「カガヤシ」と判読され「シ」は「ス」の訛音(秋田は所謂ズーズー弁の国で「シ」と「ス」の区別のない者が多い)

検44号

「カヤ」で有効。

検46号

「加賀谷保吉」の「」は「くん」と判読され敬称で有効。

検47号

「」の「」は書き誤りを消したもので有意の記載でないから有効。

検49号

初め保吉と書いて消したものと認められ、有意の記載でないから有効。

検54号

「かやし」は「かかやし」即ち「かがやす」で有効。

検55号

「かかやしかしき」の「しかしき」保吉を意味するものと認められ有効。

検56号

「カガヤヤをち」「を」は前後の関係から「き」を書こうとしたものと推測され即ち「カガヤヤきち」で有効。

検57号

「父」は「谷」を書こうとしたものと認められ有効。

検58号

「カゝヤ」であつて有効。

検59号

「カガマ」の「マ」は「ヤ」と書こうとしたものと認められ有効。

検60号

「ヤ」は明に「カガヤ」と認められ有効。

検65号

「末」は「保」の誤りと思はれ有効。

検66号

「加賀谷」の「」は全体の文字が稚拙な所を見れば加賀谷までかろうじて書き名を書こうとして失敗したもので有意の記載でもないから有効。

検67号

数字は読み方の順序を示したものであつて有意の記載でないから有効。

検70号

「ゆうきち」の「ゆ」は「保」か「ゆ」と読まれるが、「ゆうきち」としてもその名に類似した候補者も居らぬし、加賀谷の姓が明に認められるから有効。

検71号

「かがす」は「かがやす」の「や」を脱字したもので有効。

検72号

「カカ」の「」は「ヤ」と認められ有効。

検73号

「カヤ」は「ガ」の脱字で有効。

検74号

「カヤシ」の「シ」は「シ」であり「カヤシ」即ち「カガヤシ」の「ガ」の脱字で有効。

検75号

「ガガス」は「ヤ」の脱字「ガガヤス」で有効。

検76号

「カガヤホリキツ」の「ホ」は「保」を示し「カガヤヤシキツ」と認められ有効。

検77号

「カガヤキスキチ」の第四字「キ」は「ヤ」の誤りと認められるから有効。

検78号

「」は「安次郎」と判読されるがそう云う名の候補も居らぬから有効。

検79号

「」とあるのはいつたん「ヤスキチ」とは書いたが「加賀谷保吉」と云う氏名は代々加賀谷の家名であり現在の保吉は旧名「廉治」と云い大正十五年頃家名「保吉」を襲名した関係上、老人等の中には当主の名は何んと云うか判然と記憶せず、もし違つては困るとの考からそれを消し加賀谷家の若い者と云う意味で「アンコ」と書いたものと推測される。町方では若者を「アンチヤ」と云うが農村では「アンコ」と云うのが通例である。よつて「カガヤアンコ」は、カガヤの若い者と云う表示で有効。

検80号

「カガヤスギ」は「チ」の脱字と認められ有効。

検81号

「」と稚拙な文字であるが、「」は名を書かんとしたが名を忘れたか、何れにしても姓が、明瞭に記しておるから有効。

検83号

「久」は「谷」と認められ有効。

検84号

「カガハヤシキソ」とあるが、「カガヤヤシキツ」と書く意思が明で有効。

検87号

第三字「セ」は「ヤ」で有効。

検88号

「ガガヤ」は「カガヤ」と明に認められ有効。

検89号

第三字「」は「保」を表示するものと認められ有効。

検90号

「カガヤマスキケ」は「カガヤヤスキチ」と認められ有効。

検91号

「カヤス」は「カガヤス」の「ガ」の脱字と推定され有効。

検92号

「カガス」は第三字の「ヤ」の脱字と認められ有効。

検93号

「」は「谷」と認められ有効。

検94、95、96号

何れも「ヤ」「谷」の脱字と認められ有効。

二、検番号を付してない投票で既に主張したものを除き、左の通り主張する。

(1) 「おばた也しろ」(第一開票所の無効票中)の「しろ」は候補者小泉四郎の四郎を表示したもので氏名の混記で無効。

(2) 「ホパダ」(第一開票所)は「オバタ」を表示したものと認められるから無効。

(3)(イ) 「小幡谷保吉」(第四開票所以下(ニ)まで同様)は「加賀谷保吉」との氏名の混記であり当然無効。

(ロ) 「加賀谷直吉」「加賀谷保次郎」は何れも「加賀谷保吉」と確認されるもので有効。

(ハ) 「大バタ」は「オバタ」で無効。

(ニ) 「加賀谷直治」一票は加賀谷保吉の有効投票である。「加賀谷直治」という県会議員は嘗つて存在したが、去る昭和二十八年三月二十三日に現職中議員公舎に於て心臓病で急死し、当時魁新報其他各紙に大々的に報道されて周知されている。而して、歴史的人物を書くとか、不真面目な投票は別として、何人も死者に投票する者はなく又同人は南秋田郡五城目町の住人で、秋田市選挙区からは一回も立候補したことがなく且つ此の投票は僅か一票で、同様の投票が何十票とか相当数ある場合と違つて特に加賀谷候補以外の者に投票したと推定される著るしい事情はない。又加賀谷候補は秋田地区で過去十五年間県議に在職したことがあり明治年代なら加賀谷候補の曾祖父初代加賀谷保吉や其の他加賀谷姓の県議が居つたが少くとも昭和に入つてからの、加賀谷姓の県議は、加賀谷候補と昭和二十二年に初当選の加賀谷直治以外になく、加賀谷候補は昭和四年から同十二年迄土崎町長をつとめ地方的有名人で、加賀谷県議と云えば加賀谷保吉と思い込んでいるものが多く、加賀谷直治が副議長となつたとき、保吉が副議長になつたと誤認したものが相当あつた事実に徴しても「加賀谷直治」一票は、故加賀谷直治を表示したものと推断すべき強い事情が認められないから、加賀谷候補を意思したものと云わなければならない。

(4) 「小幡谷保吉」「おばたやすきち」(第五開票所)は前同様の理由で無効。

(5) 「小幡」票(各開票所に散見する)は無効である。同票は小幡谷候補の姓の第一、第二字と同様であるが、同時選挙の知事候補小畑勇二郎の「畑」を「幡」と間違える者は小幡谷の「幡」を「畑」と間違えると同様存在するのである。「小幡」票は音読して同じ姓の知事候補が居つた以上、県議の投票用紙に記載したというだけで濫りに有効と解することは失当である。

(証拠関係省略)

理由

第一、原告が昭和三十年四月二十三日執行の秋田県議会議員一般選挙の秋田市選挙区の選挙人であつたこと。本件選挙の秋田市選挙区においては定員五名に対し小幡谷政吉(原告補助参加人)、加賀谷保吉(被告補助参加人、)外九名(川口大助、荻原麟次郎、金子恭三、鈴木寿、小泉四郎、続資一、山信田嘉平、仙葉善之助、堀井逸郎)が立候補したこと。開票の結果、候補者小幡谷政吉の得票は、六、八四九票で最下位当選者、候補者加賀谷保吉の得票は六、八一八票で次点と決定し同年四月二十六日当選人の告示があつたこと。同選挙区の選挙人豊間サダ子、同渡部典児が同年五月二日被告に対し当選人小幡谷政吉の当選を争い異議の申立をなし、被告は同年六月二十六日小幡谷政吉の得票は六、七七九票、加賀谷保吉の得票は六、八二一票であるとし、小幡谷政吉の当選を無効とする旨決定し、同日その決定書を前記異議申立人両名に交付したので原告は右決定の取消を求むるため同年七月二十三日本訴を提起したことは当事者間に争のないところである。

第二、投票に対する検証調書の記載によると、選挙会の有効と決定した候補者小幡谷政吉の得票数は、六、八五三票であり、同じく候補者加賀谷保吉のそれは、六、八二〇票であることが明らかである。以下この票数を基準とし小幡谷、加賀谷両候補の有効投票数を算定する。(各投票の記載内容及びその票数については右検証調書の記載及び添付写真による。)

第三、候補者小幡谷政吉の右得票中被告、被告補助参加人等が無効を主張するものについて判断する。

(1)  「小畑」と記載した投票 六票

(2)  「ヲバタ」「ヲバダ」「オバタ」と記載した投票(検3号を含む) 四三票

(3)  「おばた」と記載した投票 一八票

(4)  「おバタ」と記載した投票 一票

(5)  「オバ」と記載した投票(検2号) 一票

以上合計  六九票

右(1)乃至(5)の投票を一括してその効力を考える。まづ本件選挙と同時に秋田県知事の選挙が執行され、これに小畑勇二郎が立候補していたことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争のないところである。

而して秋田市選挙区の全投票所において、(1)知事選挙の投票用紙と県議会議員選挙の投票用紙とを色分し(前者は黒色刷、後者は赤色刷)(2)右用紙の交付を別々にし、(3)投票順序を異にし、(4)投票記載所及び投票箱を区分したことは当事者間に争のないところであり、さらに、(5)同選挙区の多数の投票所において、係員が投票用紙を交付するに当り選挙人に対しその投票用紙が知事選挙用であるか、県議会議員選挙用であるかを明示したことがあること知事選挙の投票記載所には知事選挙候補者の氏名が、県議会議員選挙の投票記載所には県議会議員選挙候補者の氏名が、それぞれ掲示してあつたことは検証調書の記載(秋田市議会議事堂、同市土崎港北小学校の分)及び証人富樫重次郎、同長門彌太郎、同加賀谷重治、同横井澄子の証言によつてこれを認めることができるところで、右認定を覆すに足る証拠はないのであるから、選挙人が誤つて県議会議員選挙の投票用紙に知事選挙の候補者の氏名を記載するのを防止するため各般の措置が講ぜられたことは明らかであり、而も前記各投票が県議会議員選挙の投票用紙に記載されたものであることは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争のないところであるから、(右各投票以外の投票についてもこの点は同一である。以下この点についての判断を省略する)右各投票は特別の事情のない限り、選挙人が県議会議員選挙の候補者の氏名を記載したものと一応推測すべきであり、冒頭に説明したところによつて、本件選挙の同選挙区の候補者中には右投票の記載と同一またはこれに類似する氏名を有する者は小幡谷政吉の外に存在しないことが明白であるばかりでなく、候補者小幡谷政吉は時にその氏から「谷」「や」「ヤ」を脱し「小幡」「オバタ」「おばた」またはこれに類する文字をもつて表示され或は「幡」を「畑」と誤記し「小畑谷」「小畑屋」などと記載されることのあるのは検証調書の記載(本住寺に関する分)証人小幡谷政吉、同石沢泰量の証言並びに弁論の全趣旨によつてこれを認め得るところである。以上のような各事情を総合すると、前記各投票の記載は選挙人が候補者小幡谷政吉の氏を記載したものと解することができるようにみえるけれども、他方右各投票の記載は本件県議会議員選挙と同時に執行された知事選挙の候補者小畑勇二郎の氏と完全に一致するのみならず同時選挙の場合において、現在の一般選挙人の智識の程度においては両選挙の投票を間違えてする虞が多分に存することは吾人の経験則に照して明白であり、現に投票に対する検証調書の記載、証人桜庭勝蔵の証言によつて真正に成立したものと認める乙第二、三号証の記載並びに同証言によると、本件県議会議員選挙の投票のうちに、同時に執行された知事選挙の候補者古沢斐、鈴木清、小畑勇二郎の氏名を漢字または仮名をもつて明確に記載したものが相当数存在したことを認め得るのであるから本件選挙の場合に、選挙人が県議会議員選挙の投票用紙に誤つて前記各投票記載のように知事候補者小畑勇二郎の氏、名または氏名を漢字または仮名で(完全にまたは不完全に)記載したもののあり得ることを認めざるを得ない。而して我が公職選挙法は秘密投票主義を採つているのであるから、各選挙人につき何人に投票したかその真意を探求することが許されず、その投票に記載された文字その他の客観的資料のみから、この点を判定しなければならないこととなるところ、前記各投票の記載その他一切の資料をもつてしても、右各投票の記載をもつて候補者小幡谷政吉の氏を表示したものと確認することを得ないのであるから、結局該投票はすべて同候補の有効投票となすことはできず、無効投票となすの外ない。

(6)  「ホパダ」と記載した投票 一票

この投票の記載は、その字体及び音感の類似しているところからみて、選挙人は「オバタ」と記載しようとし誤つて右のように書いたものと解することができるけれども、斯の如く解するとしても、前叙の理由で候補者小幡谷政吉の有効投票となすことはできない。

(7)  「はた」と記載した投票(検12号) 一票

この投票の記載は、その字体からみて選挙人は「おばた」と記載せんとし誤つて「お」の打点及び「ば」の濁点を誤脱したものと解することができるが、右のように判読するとしても、前同様の理由で同候補の有効投票となすことはできない。

(8)  「オバタ小」と記載した投票(検29号) 一票

この投票はその記載自体からみて選挙人はまづ漢字で「小畑」と記載せんとし「畑」の字を誤つて「」となしその正確性について自信がなかつたので振仮名を付したものであることがわかるけれども「オバタ 小畑」と判読するとしても、前同様の理由で同候補の有効投票となすことを得ない。

(9)  「ナバ」と記載した投票(検27号) 一票

この投票の記載が稚拙なところから判断して、選挙人が「オバタ」と記載せんとし「オ」の第三劃「ノ」を遺脱し、「タ」を訛つて「ダ」となしたものと解することができるけれども、かように判読するとしても、前同様の理由で同候補の有効投票となすことはできない。

(10)  「オバタヤ勇」と記載した投票(検30号) 一票

この投票の記載のうち「オバタヤ」なる部分は同候補の氏を表示したもののようにみえるが、その余の部分は同候補の名とは全然類似性がないので同候補の氏名を記載したものとはなし難く却つて右記載を包括的にみると、選挙人が知事選挙の候補者小畑勇二郎の氏名を記載せんとしてその氏を誤つて「オバタヤ」となしその名の第一字を記載してその余の記載を省略したもの、すなわち小畑勇二郎を表示したものとなすべきである。斯く解するときは小幡谷候補の有効得票となすことを得ないのは勿論である。

(11)  「おた」と記載した投票(検31号) 一票

この投票の記載が幼稚な字体であることからみて、選挙人が「おばた」と記載せんとして「ば」の字を右のように誤記したものと解することができるけれども、かように解釈するとしても、前記の理由で同候補の有効投票となすことはできない。

(12)  「小ゆ―じ郎」と記載した投票 一票

この投票の記載は小畑勇二郎と判読することができるから知事選挙の候補者小畑勇二郎の氏名を記載したものとして、小幡谷候補の有効投票となすことを得ない。(原告及びその参加人も無効票であることを認める)

(13)  「小幡」または「小幡田」と記載した投票(検4、5、25号を含む) 一七票

「小幡田」と記載した投票は選挙人が漢字をもつて「おばた」と記載せんとしそれには「小幡」で十分であるのに「田」を付加する必要あるものと誤解し前記のように記載したもので、「小幡」と記載した投票と同一内容のものと解する。前に認定したとおり本件選挙に当り投票の混同防止のため各般の措置が講ぜられたことと、右各投票が県議会議員選挙用の投票用紙に記載されていること。本件選挙の候補者中には小幡谷候補の外には右記載に類似する氏名を有する候補者が存しないこと、小幡谷候補は信書などで時に「谷」「や」「ヤ」を脱し「小幡」と表示されることがあることに、吾人の経験則に照し「おばた」なる氏は普通「小畑」と記載することが多く「小幡」と記載することは少いこと及び「幡」の字は「畑」の字に比較し字劃が多く記憶し、或は書くことが困難であることが明らかであり、また検証調書の記載(投票に対する分)によると、前記小畑勇二郎を表示するものと認められる投票で「小幡勇二郎」「小幡ゆーじろう」その他「小幡」なる文字を使用した投票は存在しなかつたことが明らかであり、これらの各事実を総合すると「小幡」「小幡田」と記載した投票は選挙人が特に小幡谷候補の氏の特徴である「幡」の字を記載している点において同候補の氏を記載せんとし「小幡」「小幡田」まで記載し「谷」「や」「ヤ」を遺脱したものと解することができるので、同候補の有効投票とみるべきである。

(なお被告代理人は「小幡」と記載した投票の数を一二票と主張するが検証調書の記載(投票に対する分)によると同候補の得票中に一六票存することが明らかである)

(14)  「加賀谷保吉」と記載した投票二票、「鈴木寿」「山信田嘉平」「おきはら」「おぎわら」と記載した投票各一票 合計 六票

右各投票は小幡谷候補以外の候補者の氏名または氏を記載したものであることは冒頭に説明したところから明白であり、小幡谷候補の得票となすべきではない。(原告及び原告補助参加人も無効投票であることを認める)

(15)  「小幡谷保吉」と記載した投票四票、「おばたややしきつ」(検21号)「おばたやすきち」と記載した投票各一票 合計 六票

「おばたややしきつ」と記載した投票は選挙人が「おばたややすきち」と記載せんとして本件選挙の行われた秋田市地方一般の例の如く「す」を「し」と「ち」を「つ」と訛つて記載したものまた「おばたやすきち」と記載した投票は選挙人が「おばたややすきち」と記載せんとし重複する「や」を遺脱したものと解することができるけれども、右六票の投票については、小幡谷候補の名を誤記したものと認め得る特段の資料がなく、他方本件選挙の候補者中に加賀谷保吉の存することから考えて小幡谷候補の氏と加賀谷候補の名とを混記したものとみるべきであり、結局いわゆる混記投票として無効たるべきものである。

(16)  「オバタマサジロウ」と記載した投票 一票

この投票はその記載内容と小幡谷候補の氏名との間に類似性が乏しいので、同候補の氏名を記載したものとなし難く無効投票とみるべきである。(原告及び原告補助参加人もこの投票が無効であることを認める)

(17)  「小バタマサタロ~」と記載した投票(検32号) 一票

この投票の記載をみると、極めて拙劣な文字でしかも大部分片仮名で記載されているのであり、また他にこれと同一または類似の氏名を有する候補者がないので教育程度の低い選挙人が「小バタヤ」と記載せんとして「ヤ」を遺脱し、「マサキチ」と記載すべきを記憶の誤から「マサタロー」と誤記したものであり、結局選挙人は小幡谷政吉候補の氏名を記載したものと解することができるので、同候補の有効投票とみるべきである。

(18)  「オバタマサキ」と記載した投票(検69号) 一票

この投票の記載をみると、極めて幼稚な仮名をもつて表示しているのであり、また他にこれと同一または類似の氏名を有する候補者がないので文字に親しまない選挙人が「オバタヤマサキチ」と記載せんとして「ヤ」及び「チ」を誤脱したものと解すべく、小幡谷候補の氏名を記載したものと判読することができるから、同候補の有効投票となすべきである。

(19)  「畑」と記載した投票(検18号)「」と記載した投票(検19号)「小」と記載した投票(検20号)各一票 合計 三票

右の「」と記載した投票はその字体の類似性からみて「畑」の誤記とみることができるし、また右の「小」と記載した投票は同様の理由で「小畑」の誤記とみることもできるが、右のように解するとして、右三票をもつて小幡谷候補の氏を記載したものとなすことはできない。本件選挙の候補者中には右三票の記載に一致する氏名を有する者はなく、小幡谷候補の氏が最もこれに類似していることは明らかであり、また同候補が時に親しい人々から「ばた」「ばたやん」と呼ばれていることは証人小幡谷政吉、同池田兼蔵、同尾張谷久二郎の証言によつて認め得るところであるが、それは同候補を親密な人々が呼ぶ場合のことであり、選挙の場合には通常何人も厳粛な態度で投票用紙に候補者の氏名を記載せんとするものであるから(この点吾人の経験則に照し明白である)右検18、19号二票のように投票用紙に「小幡谷」「おばたや」などと記載せず単に「畑」と書いてあるだけでは、同候補の氏の第二字とその音感が類似するだけであるからこれをもつて選挙人が同候補を選挙せんとしてこれを記載したものとみることはできないからである。

つぎに右「小」と記載した投票を同候補の氏を記載したものと認めることができない点についてはすでに「小畑」と記載した投票について説明したところである。以上のとおりであるから右三票はすべて無効である。

(20)  「オバカヤ」と記載した投票(検24号) 一票

この投票の記載をみると、字体が極めて幼稚であつて漸く文字の形をなす程度であるから、教育程度が低く文字に親しまない選挙人が「オバタヤ」と記載せんとし辛じて「オバ」までは正しく記載したがそれ以下の二字を書くとき「タ」の打点を遺脱したため「カ」のようになり、また「ヤ」の第二劃目の棒を右にひかなかつたため「カ」に似た字体となつたものと認めることができるので、この投票の記載は「オバタヤ」と判読すべきである。小幡谷候補の有効投票となすのが正当である。

(21)  「小バタヤ〇」と記載した投票(検1号)「◎小幡谷政吉◎◎◎◎」と記載した投票(検23号)「政吉さんへ」と記載した投票(検22号)各一票 合計 三票

以上の各投票の記載のなかには小幡谷候補の氏または、名、或は氏名が存することは明らかであるが、その他の記載、すなわち「○」「◎◎◎◎」「へ」はいずれもいわゆる他事記載であり右三票はすべて無効投票となすの外ない。尤も右検22号票の「さん」が敬称であることは明らかであるが、「さんへ」を一括して敬称の類に属するものとなすのは無理であり右「へ」は他事記載として該投票を無効ならしめるものとみるべきである。

第四、無効投票中原告及び原告補助参加人が小幡谷候補の有効投票と主張するものについて判断する。

(1)  「小幡谷保吉」と記載した投票 一票

この投票は第三の(15)において説明したように本件選挙の小幡谷候補の氏と加賀谷候補の名とを混記した無効投票とみるべきである。

(2)  「大畑谷政吉」と記載した投票(検97号) 一票

この投票の記載をみると、小幡谷候補の名を完全に表示しているのみならずその余の部分もその音感は同候補の氏と酷似するし、他に右の記載と同一またはこれに類似する氏名を有する候補者はないから、同候補の氏名を記載したものとして有効投票とみるべきである。

(3)  「おばたやしろう」と記載した投票 一票

この記載をみるとその前半は小幡谷候補の氏と一致するが、その後半は本件選挙の候補者小泉四郎の名と符合し、しかも小幡谷候補の名を誤記したものとなすべき特段の事情を認め得る資料もないので、両候補者の氏名を混記した投票として無効と解すべきである。

(4)  「小幡」と記載した投票 七票

すでに説明した理由からこの記載をなした投票は小幡谷候補の有効投票となすべきである。(前記第三の(13)参照)

(5)  「小畑」と記載した投票二一票、「オバタ」「ヲバタ」と記載した投票四五票、「おばた」と記載した投票三二票、「オばた」「小ばた」と記載した投票二票、「OBata」と記載した投票一票

合計  一〇一票

右の各投票はすでに説明したと同一の理由で無効票と認める。同候補の有効投票となすことはできない。(前記第三の(1)乃至(5)参照)

(6)  「大バダ」と記載した投票 一票

この投票の記載を「オバタヤ」の「ヤ」を誤脱し「オヽバダ」と訛り「大バダ」と記載したものと解するのはこの記載自体からみて無理であり、むしろ選挙人は「オバタ」と記載せんとし「タ」に濁点を付し(訛つたもの)「オ」の代りに「大」を使用したものとみるのが自然である。斯く解すると他の「小畑」「オバタ」と記載した投票と同様小幡谷候補の有効投票となすことはできない。

(7)  「オバヤ」と記載した投票 一票

この投票の記載は、明らかに「オバヤ」と読み得るのであり、これと同一または類似する氏名を有する候補者は小幡谷政吉だけであるから、右の記載は選挙人が「オバタヤ」と記載せんとし「タ」を誤脱したものと認められるので同候補の有効投票とみるべきである。

(8)  「おバヤ」「小バヤ」「小ばヤ」と記載した投票各一票(検61、62、63号)

合計  三票

右の三票は他に右記載と同一またはこれに類似する氏名を有する候補者が存在しないところからみて選挙人が小幡谷候補の氏を記載しようとして「タ」若しくは「た」を遺脱したものとみるべきであり、特に「ヤ」を記入しているところからみて知事選挙の候補者小畑勇二郎の氏を誤記したものと解することはできないので小幡谷候補に対する有効投票と認める。

(9)  「オタヤ」と記載した投票 一票

本件選挙の候補者中には右の記載と同一または類似する氏名を有する者はないのみならず、小幡谷候補の氏と相似ているから選挙人が「オバタヤ」と記載せんとし誤つて「バ」を脱落したものと解することができるので、同候補の氏を記載した有効投票と認むべきである。

第五、加賀谷候補の得票中小幡谷候補の有効投票とみるべきもの。

加賀谷候補の前記得票中に「おばたやまさきち」と記載した投票二票(第八、第九投票所分に各一票)及び「小幡谷政吉」と記載した投票八票(第七投票所分に三票、第八投票所分に一票、第九投票所分に四票)合計十票の存することは本件投票に対する検証調書の記載によつて明らかでありこの十票は小幡谷候補の氏名を記載したものとして同候補の有効投票たるべきものである。

第六、加賀谷候補の前記得票中原告及び原告補助参加人が無効を主張するものについて判断する。

(1)  「加賀」と記載した投票(検42、95、96号を含む) 五票

本件選挙の候補者中には右記載と同一または類似の氏名を有する者は加賀谷候補の外にはなく、同候補の氏が之に酷似するので、選挙人は「加賀谷」と記載せんとして「谷」を遺脱したものと認むべきであり、同候補の有効投票とみるを相当とする。

(2)  「かかヤシ」と記載した投票(検43号) 一票

候補者加賀谷保吉の氏名を省略して「加賀保」「カガヤス」と呼称し或は記載することがある事実は証人加賀谷保吉の証言によつて認め得るところであり、本件選挙の行われた秋田市地方において「ス」を「シ」と訛つて発音しまたは記載することがある事実は当裁判所に顕著なところであるから、右投票の記載は選挙人が加賀谷候補の略称「カガヤス」を記載しようとし「か」の濁点を遺脱し「ス」を「シ」と訛つて右のように書いたものとみることができるので、この投票は同候補の氏名を記載した有効投票と認める。

(3)  「カヤ」と記載した投票(検44、73号) 二票

この投票の記載は、本件選挙の候補者中に他に右記載と同一または類似の氏名を有する者がなく、加賀谷候補の氏に近似するので選挙人が同候補の氏「カガヤ」を記載せんとして「ガ」を遺脱したものと認め得るから同候補の有効投票と解する。

(4)  「賀谷保吉」と記載した投票(検45号) 一票

この投票の記載は、本件選挙の候補者中に他に右記載と同一または近似する氏名を有する者がなく、加賀谷候補の氏名に類似するから、選挙人が同候補の氏名「加賀谷保吉」を記載せんとして「加」の一字を誤脱したものと認めるのを相当とするので同候補の有効投票と解する。

(5)  「加賀谷保吉」と記載した投票(検46号) 一票

右投票の記載をみるに、上方には加賀谷候補の氏名を明記してあり、その末尾に附加して記載されているのは、必ずしも明瞭ではないが「くん」と判読することができるので「くん」すなわち「君」であり候補者の氏名に敬称を付したものと認むべく、投票の無効を来す他事記載となすことはできない。加賀谷候補の有効投票と認める。

(6)  「」と記載した投票(検47号) 一票

右投票の記載を検するに、「加賀谷保吉」の上方に存する記載は「カ」の字を記載しこれを抹消したものであることが明白であるから、選挙人が「加賀谷保吉」と記載せんとし「加」の字を書くに当りまづ「カ」と記載したが字体が拙劣であつたのでこれを抹消しその下方に新に「加賀谷保吉」と書いたものと認むべく、有意の他事記載とみるべき何等の資料もないから、この投票は加賀谷候補の有効投票と認むべきである。

(7)  「カガヤ 賀保吉」と記載した投票(検48号) 一票

この投票の記載をみると、選挙人は漢字をもつて「カガヤヤズキチ」と記載せんとしまづ「賀保吉」と記載したがこれだけで右のように読み得るかどうか自信がなかつたので特に冒頭の一字に振仮名を付し「カガヤ」と読むべきことを示したものと認められ、右の振仮名をもつて有意の他事記載と解すべき特別の事情を認め得る証拠はないので右投票は加賀谷候補の有効投票と解する。

(8)  「」と記載した投票(検49号) 一票

この投票の記載を調査するに、左方に存する部分は「保」と記載したのを抹消した形跡が歴然としているから、選挙人はまづ加賀谷候補の名「保吉」を記載せんとし「保」及び「士」のあたりまで書いたが、氏名を完全に表示すべきであると思い一旦記載したものを抹消し新にその右側に「加賀谷保吉」と記入したものであることを認め得るので、右の抹消部分は何等他事記入としてこの投票を無効ならしめるものではない。同候補の有効投票と解する。

(9)  「」と記載した投票(検50号) 一票

この投票の記載を仔細にみると、左側の部分は一旦「賀」と記載しこれを縦棒をもつて抹消したものであり、右側の部分は加賀谷保吉の前記略称「加賀保」を表示したものであることがわかるので、選挙人は加賀谷候補の右略称を記載せんとしたが誤つてまづ「賀」と書いたのでこれを抹消しその右側に新に「加賀保」と記入したものであることを認め得べく、前記の抹消部分は有意の他事記載となすべきではない。この投票も同候補の有効投票となすべきである。

(10)  「かやし」と記載した投票(検54号) 一票

この投票の記載をみると、文字が明確を欠くけれども、「かかやし」と判読することができるので、前記のとおり加賀谷候補の略称が「加賀保」「かがやす」であること、秋田市地方において「す」を「し」と訛つて発音し記載することがある事実を考えあわせ、他方右記載と同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはないのであるからこの投票は選挙人が同候補の略称「かがやす」を第二字「が」の濁点を遺脱し、且「す」を「し」と訛つて記載したものと認められるので同候補の有効投票と認むべきである。

(11)  「かかやしきち」と記載した投票(検55号) 一票

この投票の記載をみると、文字が極めて稚拙であるから教育程度の低い選挙人が前叙のように加賀谷候補の略称加賀保を訛つて「かがやし」となしさらに第二字目の「か」に濁点を付すること及び「や」の打点を遺脱して「かかやし」と記載し、それに同候補の名「保吉」(やすきち)を訛つて「やしきち」としこれを重ねて記載したものと解することができるのであり、また右記載と同一若くは類似の氏名を有する候補者は他にないのであるから右投票は加賀谷候補の氏名を記載したものとして同候補の有効投票とみるべきである。

(12)  「カガヤヤち」と記載した投票(検56号) 一票

この投票の記載を精細に調査するに、その文字がたどたどしいところからみて文字に親しまず教育程度の低い選挙人がまず片仮名で「カガヤ」と記載し、さらに平仮名、片仮名を混同して「ヤすきち」と記載する際「す」を誤つて左文字の「」となし且つ「き」を遺脱したものと解することができるので、この投票は「カガヤヤすきち」すなわち加賀谷候補の氏名を記載したものとして同候補の有効投票と解すべきである。

(13)  「加賀」と記載した投票(検57号) 一票

この投票の記載をみると、上部の二字は明らかに「加賀」であり下部の一字は「谷」の誤記と認めることができないわけでもないし、他方本件選挙の候補者中には右記載に類似する氏名を有する者は他にないので加賀谷候補の氏を記載したものとして同候補の有効投票とみるべきである。

(14)  「カノヤ」と記載した投票(検58号) 一票

この投票の記載をみると、幼稚な文字ではあるが「カヽヤ」と書いたものであることがわかるので、文字に習熟しない選挙人が第二字「ガ」の濁点を遺脱し「カヽヤ」となし加賀谷候補の氏を記載したものと認め得るので同候補の有効投票となすべきである。

(15)  「カガマ」と記載した投票(検59号) 一票

この投票の記載をみるに、上部の二字は「カガ」であり、下部の一字は「マ」のようにみえるけれども、「ヤ」と記載せんとし第二劃の棒が第一劃の上に抜けなかつたものにすぎず、選挙人は不完全ではあるが「カガヤ」と記載したものと認め得るし、他方本件選挙の候補者中に「カガマ」と同一または類似の氏名を有する者は他にないので右投票は加賀谷候補の氏を表示した同候補の有効投票と解する。

(16)  「ヤ」と記載した投票(検60号) 一票

この投票の記載をみると、教育程度の低い選挙人が辛じてこの記載をなしたものと認められるので、第一字、第二字は「カガ」の誤記、すなわち選挙人は「カガヤ」と記載せんとして第一字第二字の第二劃をいづれも誤脱したものと認めることができるので、この投票は加賀谷候補の氏を記載した有効投票となすべきである。

(17)  「加賀谷直吉」と記載した投票 一票

「加賀谷直吉」なる氏名を有する者が実在することについてはこれを認め得る資料はなく且右投票が本件県議会議員選挙の投票用紙であることからみて右記載をもつて候補者以外の者の氏名を記載したものとなすのは失当であり、さらにこの投票の記載は加賀谷候補の氏名と完全には符合せず名の一字を異にするが、右の記載と同一の氏名を有する候補者はなく、これに類似する氏名を有するのは同候補のみであるから、選挙人が同候補の氏名を記載せんとしてその氏は完全に書いたがその名の一字を誤記したものと認め得るのでその有効投票とみるべきである。

(18)  「加賀谷保次郎」と記載した投票 一票

「加賀谷保次郎」なる氏名を有する者が実在することについてはこれを認め得る証拠はなく且右投票が本件県議会議員選挙の投票用紙であるところからみて右記載をもつて候補者以外の者の氏名を記載したものとなすのは失当であり、さらにこの投票の記載をみると、その記載は加賀谷候補の氏を完全に記載してあり、名の第一字も一致するが名の第二字以下を異にする。しかし、本件選挙の候補者中には右の記載と同一の氏名を有する者はなく、これに類似する氏名を有するのは同候補のみであるから、選挙人が同候補の氏名を記載しようとしてその氏は完全に書き、その名の第一字「保」まで記載したがそれ以下を誤記したものと認め得るので同候補の有効投票となすべきである。

(19)  「加賀谷」と記載した投票(検66号) 一票

この投票の記載を調査するに、全体が漢字で記載してはあるが極めてたどたどしい書き方であるから、漢字に習熟しない選挙人が加賀谷候補の氏名を記載しようとして「加賀谷」まで書きつぎに「保吉」と記載すべきをこの文字を誤つて「安吉」と書こうとし「安」の字を右のとおり誤記し「吉」を脱したものと認め得るのであり、また末尾のこの記載をもつて有意の他事記載とみなければならないような特別の事情も認められないのであるから、この投票は同候補の有効投票となすべきである。

(20)  「ゆうきち」と記載した投票(検70号) 一票

この投票の記載を精細にみると、選挙人はまづ「か」と記載しその下に何等か文字を二字と「ゆうきち」と記載したが其の意に満たなかつたのでこの二字を抹消しその右側に「賀や」と新に記入したものであることが明らかであり、右二字の抹消部分をもつて有意の他事記入とみるべき特別の事情もないのみならず、この記載全体の稚拙なことから判断して教育程度の低い選挙人が加賀谷候補の名を誤つて「ゆうきち」と記憶しそれをそのまゝ記載したものと認められるしまた他に「ゆうきち」と同一または類似の氏名を有する候補者はないのでこの投票は同候補の氏名を記載した有効投票と認むべきである。

(21)  「加賀屋末吉」と記載した投票(検65号) 一票

「加賀屋末吉」なる氏名を有する者が実在することについてはこれを認め得る証拠はなく且右投票が本件県議会議員選挙の投票用紙に記載されていることからみて右記載をもつて候補者以外の者の氏名を記載したものとなすのは失当であり、さらに右投票の記載中第三字の「屋」は同音であるところから「谷」を誤記したもの、第四、五字「末吉」は音感の類似性からみて「保吉」の誤記とみることができるし、他に右記載と同一または類似の氏名を有する候補者はないから、この投票は選挙人が加賀谷候補の氏名を記載しようとして右のように誤記したものと解し同候補の有効投票とみるべきである。

(22)  「」と記載した投票(検67号) 一票

この投票の記載を仔細に検討するに、その筆勢の鋭いこと、各文字の位置から判断して、選挙人が加賀谷候補の氏名を記入せんとし誤つて「賀加保吉」と記載したので右上方に「加」を書き、遺脱していた「谷」を初に記載した「加」の右側に添加し、その読む順序を示すため123の数字を各文字に付記し「加賀谷保吉」と判読させようとしたものと認めることができるので(「賀」の下に存する「加」は抹消することを忘れたもの)右投票は同候補の氏名を記載したものとして有効投票と認むべきである。右の123「加」の記載をもつて他事記載と認めねばならないような事情は発見できないので原告及び原告補助参加人がこれをもつて他事記載となし右投票を無効と主張するのは失当である。

(23)  「かがす」と記載した投票(検71号) 一票

この投票の記載は本件選挙の候補者中に右と同一または類似の氏名を有する者のないところからみて、また前叙のとおり加賀谷候補の略称が「かがやす」であることから考えて選挙人が「かがやす」と記載せんとし「や」を遺脱したものと解することができるから、この投票は同候補の氏名を記載したものとして同候補の有効投票と認める。

(24)  「カカ」と記載した投票(検72号) 一票

この投票の記載をみるに、片仮名をもつて極めて幼稚な記載をなしているから、教育程度の低い選挙人が「カガヤ」と表示しようとして第二字「ガ」の濁点を遺脱し、第三字「ヤ」の書き方が拙劣なため「キ」のようになつたものにすぎず「ヤ」と判読し得るし、他方「カカキ」または之に類似する氏名を有する候補者は加賀谷候補の外に存しないから、この投票は同候補の氏を記載した有効投票となすべきである。

(25)  「カヤ」と記載した投票(検74号) 一票

この投票の記載は拙劣ではあるが「カヤシ」と読み得るところ、これと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはないし、しかも前叙のように同候補の略称が「カガヤス」であるところから判断して、この投票は選挙人が「カガヤス」と記載しようとして、「ガ」を遺脱し、前記のとおり秋田市附近一般の例により「ス」を「シ」と訛つたものと認め得るので、同候補の氏名を記載した有効投票と解する。

(26)  「カガス」と記載した投票(検75号) 一票

この投票の記載は、これと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外になく、また前叙のとおり同候補の略称が「カガヤス」であるところから考えて、選挙人は「カガヤス」と記載せんとし「ヤ」を誤脱したものと解することができるので同候補の氏名を記載した有効投票とみるべきである。

(27)  「カガヤホリキツ」と記載した投票(検76号) 一票

この投票の記載を検するに、片仮名でしかも稚拙な字体であるから、教育程度の低い選挙人が加賀谷候補の名を「ホーキチ」と読み誤りこの誤解に基いて片仮名でその氏名を記載せんとするに当り長音符号(ー)を「リ」のように書き、前叙の如く「チ」を「ツ」と訛つたものとみることができるし、他方右記載と同一または類似の氏名を有する候補者は同候補の外にはないから、この投票は同候補の氏名を記載した有効投票と認める。

(28)  「カガヤキスキチ」と記載した投票(検77号) 一票

この投票の記載をみるに、全体が片仮名でしかも幼稚な文字で書かれているところから判断して文字に習熟しない選挙人が「カガヤヤスキチ」と記載しようとして「ヤ」の一字を「キ」と書き誤つたものと解することができるし、これと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にないから、この投票は同候補の氏名を記載した有効投票となすべきである。

(29)  「」と記載した投票(検78号) 一票

この投票の記載は「加賀谷安次郎」と判読することができるが、これと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはないので、選挙人が同候補の名「保吉」をこれと音感の似ている「安次郎」と誤解しそのまゝ表示したものと認め得るので、右投票は同候補の氏名を記載した有効投票となすべきである。

(30)  「」と記載した投票(検79号) 一票

この投票の記載を精しくみるに、選挙人はまづ「カガヤヤスキチ」と書き後に「ヤスキチ」なる部分を縦の棒をもつて抹消し、その右側に「アンコ」と記入したものであることが明らかである。而してこの「アンコ」なる言葉は本件選挙の行われた秋田市地方においては「長男、若い男、下男」などの意味で用いられ、むしろ蔑称であり決して敬称またはこれに類するものでないことは、成立に争のない乙第七号証、証人加賀谷保吉の証言並びに弁論の全趣旨から認め得るところである。他に右記載と同一または類似の氏名を有する候補者はないので、この投票は加賀谷候補の氏を記載したものと認めることはできるが「アンコ」なる記載は他事記入としてこの投票を無効ならしめるものと解する。

(31)  「カガヤスギ」と記載した投票(検80号) 一票

この投票の記載をみるに、幼稚な字体で「カガヤスギ」と書いてあり、これと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはなく、本件選挙の行われた秋田市地方では「キ」を「ギ」「チ」を「ヂ」と訛つて発音しまたは記載することがあるのは当裁判所に顕著な事実であるから、教育程度の低い選挙人が同候補の氏名を訛音で「カガヤヤスギヂ」を書こうとして重複する「ヤ」を誤脱し、末端の「ヂ」を遺脱したものと解することができるので右投票は同候補の氏名を記載したものとみて有効投票と解するを相当とする。

(32)  「」と記載した投票(検81号) 一票

右投票の記載をみるに、初め「加賀」と書きその第二字と第三字との中間の右側に「谷」を加えたものであり、右第三字はその字体から「保」の字の人偏を誤脱したものと認め得るので、(有意の他事記入となすべき事情は認められない)この投票には「加賀谷保」と書かれたものであり、しかもこれと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはないのであるから、この投票は選挙人が同候補の氏名を記載しようとして名のうち「保」の字を右のように書き誤り、「吉」を遺脱したものとみて、不完全ではあるが同候補の氏名を記載した有効投票となすべきである。

(33)  「加賀久保吉」と記載した投票(検83号) 一票

この投票の記載をみると、漢字で書いてはあるが、たどたどしい筆勢であることがわかるので、漢字などに習熟しない選挙人が「加賀谷保吉」と書こうとして右の「谷」を「久」と書き誤つたものと認めることができるので、右投票は加賀谷候補の氏名を記載したものとして有効投票となすべきである。

(34)  「カガハヤシ才ク」と記載した投票(検84号) 一票

この投票の記載をみるに、片仮名をもつて極めて幼稚な文字で書いてあるから、候補者の何人かの氏名を誤記したものではないかと推測される。而して右の記載に類似する氏名を有するのは加賀谷候補のみであるが、該記載と同候補の氏名とは第一、二字「カガ」が一致するのみでその余は全く異つている。結局右記載を全体としてみるに同候補の氏名を記載したものとはなし得ないところであるから無効投票となすの外ない。

(35)  「ガガ」と記載した投票(検85号) 一票

この投票の記載をみるに、稚拙な文字で、しかも片仮名で書いているのであり、しかもこれと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはないから、教育程度の低い選挙人が同候補の氏を記載せんとして、「ヤ」を誤脱し、第一字「カ」を訛つて「ガ」としたもの(本件選挙の執行された秋田市地方一般にカ行の音を訛つて濁点を付して発音しまたは記載することがあるのは当裁判所に顕著な事実である)と解することができるので同候補の氏を記載した有効投票とみるべきである。

(36)  「かヤ」と記載した投票(検87号) 一票

この投票の記載を精査するに、第一字は「か」、第二字は「ヤ」と判読できるが、第三字は「カ」であるか「ヤ」であるか明確でないし、第四字にいたつてはついに判読不可能である。右の記載をもつて加賀谷候補の氏名を記載したものとは到底認めることができないので、この投票は無効投票となすの外ない。

(37)  「ガガ」と記載した投票(検88号) 一票

この投票の記載は、「ガガヤ」と書いてあるようにみえるが、仔細に調べてみると、全体が幼稚な字体であるから文字に習熟しない選挙人が「カガヤ」と記載せんとし第三字「ヤ」の第二劃が短きに失したため「カ」に似た字体となつたものであり、第一字「ガ」は前叙のとおり秋田市地方一般の例に従つて、「カ」を訛つて「ガ」となしたものと解することができるので右投票は加賀谷候補の氏を記載した有効投票と認むべきである。

(38)  「賀谷佶吉」と記載した投票(検89号) 一票

この投票の記載をみるに選挙人が「加賀谷保吉」と記載せんとして類似音であるため第一字の「加」を誤脱し、「保」の字を正確に書き得なかつたので振仮名として「ヤ」を付して「ヤス」と読むことを示したものと解することができるし、他にこの記載と同一または類似の氏名を有する候補者はないので右投票は加賀谷候補の氏名を記載したものとして有効投票と認める。

(39)  「カガヤヌスキケ」と記載した投票(検90号) 一票

この投票の記載をみるに、全体が稚拙な仮名で記載されているから、教育程度の低い選挙人が「カガヤヤスキチ」と書こうとして第四字の「ヤ」の第二劃が短きに失したため「ヌ」に似た字体となり、また第七字の「チ」の第三劃が横棒の上に抜けなかつたため「ケ」のように見えるだけであつて「カガヤヤスキチ」と判読することができるので加賀谷候補の氏名を記載した有効投票となすべきである。

(40)  「カヤス」と記載した投票(検91号) 一票

この投票の記載は、その字体の幼稚な点からみて教育程度の低い選挙人が「カガヤス」と書こうとして「ガ」を誤脱したものと認められるので、右投票は、加賀谷候補の略称「加賀保」「カガヤス」を記載したものとして同候補の有効投票と解する。

(41)  「カガス」と記載した投票(検92号) 一票

この投票の記載も、その字体が稚拙なところからみて、文字に習熟しない選挙人が前記の加賀谷候補の略称「カガヤス」を記載せんとして「ヤ」を遺脱したものと解することができるので、同候補の右略称を記載したものとして有効投票となすべきである。

(42)  「加賀」と記載した投票(検93号) 一票

右投票の記載は検57号と類似しているので、同様に第三字は「谷」の誤記と解し加賀谷候補の有効投票と認める。

(43)  「カガ」と記載した投票(検94号) 一票

この投票の記載は、加賀谷候補以外に右記載と同一または類似の氏名を有する候補者はなく、しかも同候補の氏に近似しているから、選挙人が「カガヤ」と書こうとして「ヤ」を誤脱したものと認め得るので同候補の有効投票とみるべきである。

(44)  「加賀谷 政吉」と記載した投票 一票

この投票の記載は、本件選挙の候補者加賀谷保吉の氏と同じく小幡谷政吉の名とを混記したものと認められ、いわゆる混記投票として無効となすべきである。

(45)  「加賀谷保吉 推す」と記載した投票 一票

右投票の記載中「推す」の部分はいわゆる他事記載としてこの投票を無効たらしめものと解すべきである。

第七、加賀谷候補の前記得票中原告及び原告補助参加人が他の候補者の氏名を記載したものと主張する投票について判断する。

本件投票に対する検証調書の記載、鑑定人円谷浩之助の鑑定の結果によると加賀谷候補の前記得票中に「仙葉善之助」と記載した投票一票、「おばたやまさきち」と記載した投票二票、「小幡谷政吉」と記載した投票八票、「かねこきよぞう」と記載した投票一票、「コイズミシロウ」と記載した投票(検53号)一票、合計十三票の存することが認められるところ、右各投票はすべて加賀谷候補以外の候補者の氏名を記載したものであることは前記第一に説明した点から明白であるからこれを加賀谷候補の有効投票となすことはできない。

第八、無効投票中被告及び被告補助参加人両名が加賀谷候補の有効投票と主張するものについて判断する。

(1)  「」と記載した投票(検10号) 一票

この投票の記載をみると、その第一字は「加」であり、その下に「賀」の字を記載せんとしてまづ「カ」を書いたがその形が拙劣であつたのでこれを抹消するため打点して「」となしその右側に新に「賀」を書いたものと認め得るのであり、「加賀」と同一またはこれに類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補だけであるから、右投票は選挙人が同候補の氏を書こうとして前記のように「加賀」まで記載し「谷」を遺脱したものと解すべく同候補の氏を記載した有効投票となすべきである。(第六(1)参照)

(2)  「カガ」と記載した投票(検11号) 一票

この投票の記載をみると、「カガア」と読み得るが、これと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはなく、全体が幼稚な片仮名で書いてあるから、教育程度の低い選挙人が「カガヤ」と書こうとして辛じて「カガ」まで書いたが最後の「ヤ」はその運筆を誤つて「ア」に似た字体となつたものと認められるので、この投票は同候補の氏を記載した有効投票となすべきである。

(3)  「カカマス」と記載した投票(検14号) 一票

この投票の記載をみると、一応「カカマス」と書いてあるようにみえるが、これと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはなく、また前叙のように同候補の略称が「カガヤス」であるところから考えて、文字に習熟しない選挙人が「カガヤス」と書こうとして第二字「ガ」の濁点を遺脱し、「ヤ」を誤つてて「マ」に近い字体となし、最後の一字も辛じて「ス」と読み得るようになつたと認められるので、右投票は同候補の氏名を記載した有効投票と解すべきである。

(4)  「カヤ」と記載した投票(検15号) 一票

この投票の記載は、明らかに「カヤ」と読み得るが、これと同一または類似の氏名を有する候補者は同候補の外にはないのであるから、選挙人が同候補の氏「カガヤ」を記載しようとして「ガ」を誤脱したものと解することができるので、この投票は同候補の氏を記載した有効投票と認める。

(5)  「加賀谷直治」と記載した投票 一票

本件選挙の候補者中には「加賀谷」の氏を有する者は加賀谷候補の外にはないから、選挙人が同候補の名を、誤つて「直治」と誤記したようにみえるが、「直治」と「保吉」との間には、文字の形体または音感において類似性が全然なく、而も成立に争のない乙第五号証、証人加賀谷保吉の証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、秋田県南秋田郡五城目町出身の加賀谷直治なる人物があり昭和二十二年南秋田郡選挙区から立候補し秋田県議会議員に当選し、昭和二十六年再選され、県議会副議長となつたが昭和二十八年三月二十二日急死したことが認め得るので、加賀谷直治はかつて実在した人物でしかも秋田市において相当著名な人物であつたことがわかるので、選挙人がその死亡したことを知らず本件選挙に立候補しているか否かを確めず同人を県議会議員の適任者と認めてその氏名を記載したものと解すべく右投票は死亡者の氏名を記載したものとして無効投票となすべきである。

(6)  「カカヤキ」と記載した投票(検38号) 一票

この投票の記載をみると、「カカヤキヂ」と読み得るがこれと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはなく、しかもその字体が極めて幼稚な片仮名であることから考えて、この投票は教育程度が低く文字に習熟しない選挙人が「カガヤヤスキチ」と書こうとして第二字「ガ」の濁点を遺脱し重複する「ヤ」及び「ス」の二字を脱落し、さらに最後の「チ」を訛つて「ヂ」となしたもの(本件選挙の行われた秋田市地方で右のように「チ」を「ヂ」と訛つて発音し記載することは当裁判所に顕著な事実である)と解することができるので、この投票は加賀谷候補の氏名を記載したものとして有効投票となすべきである。

(7)  「かかや加〔かかや〕シキツ」と記載した投票(検39号) 一票

この投票の記載をよく見るに、「かかやシキツ」と書いてあることは明らかであるが、これと同一または類似の氏名を有する候補者は加賀谷候補の外にはなく、全体が極めて幼稚な字体であるから教育程度の低い書字能力の乏しい選挙人がまづ「加賀谷」と記載せんとして「加」は正確に書いたが「賀」の字は正しく書くことができず「」となし右の記載に自信がなかつたのでその右側に「かかや」と振仮名を付して右の二字が「かがや」を表示したものであることを示したものと考えられ、さらに「シキツ」なる部分は「ヤスキチ」と書くべきところを重複するため氏の末字「や」をもつて代用し、前叙の如く「ス」を「シ」と、「チ」を「ツ」と訛つて記載したものとみることができるので、右の投票は不完全ながら加賀谷候補の氏名を記載したものとして有効投票と解する。

(8)  「」と記載した投票(検40号) 一票

この投票の記載をみるに、第一字が「加」であること、第二字は「々」ではなく口であり、第三字以下は判読不能であるから、右記載をもつて加賀谷候補の氏、名、または氏名を記載したものとなすことを得ないので、この投票は同候補の有効投票となすべきではない。

第九、小幡谷候補の得票中に「加賀谷保吉」と記載した投票が二票存することは、本件投票に対する検証調書の記載によつて明白なるところであり、この二票は加賀谷候補の氏名を記載したものとして同候補の有効投票となすべきである。

第十、以上第二乃至第五において説示したところに基いて計算するに小幡谷候補の有効投票は合計六、七八一票となり、同じく第二及び第六乃至第九において説示したところに基いて計算するに、加賀谷候補の有効投票は合計六、八一〇票となることは算数上明白であるから、(別紙計算表参照)加賀谷候補の有効投票は小幡谷候補のそれより二九票多数となる。よつて本件選挙においては加賀谷候補が第五位の当選者となるべく、小幡谷候補は次点者たるべきである。右と同趣旨に出た原決定は結局正当であるから、これを失当としてその取消を求める原告の本訴請求は理由のないものとして棄却するの外ない。

すなわち民事訴訟法第八十九条、第九十四条に則つて主文のとおり判決する。

(裁判官 浜辺信義 松本晃平 兼築義春)

(別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例